スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

生き物を描くことを通して伝えたい思い 絵本作家金尾恵子さん

より本物らしい生物画を描くことで知られる科学絵本作家、金尾恵子さん。『らいおん』を描いたときはアフリカのサバンナへ、『マングローブ』のときは西表島のマングローブへ。また『いもり』や『やどかりくんのうちさがし』を描いたときは家で飼育をしたという徹底ぶり。稀有な観察眼と自然や生き物へのやさしさから生み出された数々の作品は、見る者を感動させる。絵本づくりの工程とそれにかける思い、そして、次世代の子どもたちに伝えたい思いとは。

 

絵本作家 金尾恵子さん
かねお けいこ  大阪市生まれ。1970年頃より図鑑や雑誌、科学読み物、絵本で、動物や鳥、魚など細密画を描く画家・絵本作家として活躍。本業の傍ら読書振興活動として、手づくり絵本の企画、講演なども展開中。『河合雅雄の動物記』シリーズ(フレーベル館)、『ファーブル昆虫記』シリーズ(チャイルド本社)ほか、『森のスケーターヤマネ』『みつばちの家族は50000びき』(文研出版)、『いもり』『いしがめ』『らいおん』(福音館書店)など作品多数。毎日出版文化賞受賞。

一度でアフリカの虜になりました

藤本 今回、何冊か金尾さんのご本を拝見し、ものすごく内容が濃く、また感動するところが多くてびっくりしたんです。正直、これまでに科学絵本というのを読んだ記憶があまりなかったんです。

金尾 「科学絵本」にはいい本がたくさんありますが、意外に知られていなくて…。

藤本 すみません、私も存じ上げなくて。科学絵本とはどういうものをいうのですか。すみません、私も存じ上げなくて。科学絵本とはどういうものをいうのですか。金尾恵子さんとの対談写真 その1

金尾 ストーリーではなく、実際に身の回りにある事柄を絵本にした作品です。主に自然や生き物を描写することが多いですね。

藤本 人間を描くことはしないのですか。

金尾 科学絵本を描く人は、人間はあまり描きませんね。主役が2つあるとウェートのかけ方が難しいんです。ですから私は
生き物のほうを選んだのです。

藤本 そもそも金尾さんが、自然や生き物に興味を持たれたきっかけは何ですか。

金尾 子どものころは外で遊ぶのが当たり前。周りには自然がいっぱいあったし、いつも何かの生き物とふれあっていましたね。

藤本 ご自分で飼っていらっしゃるとか?

金尾 絵本をつくるために、飼えるものは飼いますよ。今もヤドカリとカニを飼っていますし、その前はイモリを飼っていました。動きがよくわかるし、生き物から伝わってくるものがあります。

藤本 動物の本を描くには、やはり実際のフィールド(生息地)観察が必要なんですか。

金尾 一冊の本を描くのに、取材に1年。生態を見ようとしたらフォーシーズンを見なければなりません。そのあと2年目に内容を考えたり、打ち合わせたり、校正したり。最後に本にして販売するまでに1年はかかりますので、合計3年間は必要です。

藤本 時間と手間がかかるのですね。

金尾 科学読み物というのは、学者や専門家などの著者(作者)がいらっしゃって、こんな絵をこんな風にと細かく打ち合わせていきます。ですから取材に1年といっても著者の先生にしてみたら、何十年という長い研究期間のうちの1年間です。

藤本 かなり根気のいる仕事ですね。

金尾 好きだからできることです。楽しくて申し訳ないくらい。私はもともと動物が好きなうえに、絵を描くことが好きだったんです。基礎を習おうと絵の学校に入り、その後、絵本に興味を持ち、薮内正幸(※)さんの絵と出会うことによって、生物画の世界に入ったんです。

藤本 生き物の絵を描かれる方ですよね。

金尾 とても精巧な絵で自然の美しさが表現されているんです。それからのご縁で、最初にいただいたのは図鑑の絵を描く仕事でした。図鑑というのは「きれい」や「上手い」の前に正確さを求められるんです。

藤本 子どもは図鑑が大好きですね。

金尾 子どもの観察力や洞察力はすごく、こちらも手を抜けません。

藤本 ケニアの動物を描いた絵本もありますが、アフリカにも行かれたんですか。

金尾 出版関係者の忘年会で「アフリカ行き」の話が出たんです。動物カメラマンの方が誘ってくださったんで、「行く、行く!」と二つ返事で答えました。

藤本 実際のアフリカはいかがでしたか。

金尾 楽しくて刺激的で。大地から何かがやってくるという感じ。興奮が自分の中に湧き上がってくるのがわかるんです。初めて行ったのは30代のとき。あまりの自然の雄大さに、すっかり虜になってしまいました。

藤本 聞いているだけでゾクゾクします。

金尾 サバンナは360度地平線の世界です。動物たちが悠然といるんですよ、あっちにもこっちにも。そこは、生きていくための食物連鎖の世界。弱肉強食、狩りのシーンは緊張で身が引き締まります。ライオンを丸一日追いかけて、生きていくための壮絶な闘いを目のあたりにしました。

※薮内正幸(やぶうち まさゆき)/(1940-2000)細密な生物画を描く動物画のパイオニア。『どうぶつのおやこ』『しっぽのはたらき』(福音館書店)などの絵本、『ガンバとカワウソの冒険』『広辞苑』(岩波書店)の挿絵、『野鳥の図鑑』(福音館書店)など著書多数。 

親子の愛情に勝るものはない

藤本 『らいおん』(福音館書店)という本に描かれていましたね。

金尾 百獣の王といわれるライオンも、常にごちそうにありつけるのではなく、5日に1回獲物を捕えるかどうかくらいなものです。中にはあばら骨が見えているライオンもいて、そうして必死で狩りをしてやっと食べていってるんです。

藤本 表紙の親子ライオンの表情が何ともいえず、自然でいいですね。 金尾恵子さんとの対談写真 その2

金尾 ライオンの世界では狩りはお母さんの仕事。ほら、こうして本を開くとわかりますが、裏表紙であくびをしているのがお父さんライオンです。

藤本 ええっ!?

金尾 お母さんライオンが狩りをする間、お父さんは子どもと留守番。お母さんは命を張って、子どもたちを産み育てているんです。「これは絶対に絵本にして、子どもとお母さんに伝えたい」って思ったのです。

藤本 それにしてもこのお母さんライオン、やさしくてりりしくて、何ともいえないいい表情をしていますね。 

金尾 先ほど人間を描かないといいましたが、動物の絵を通して伝えたいことは、人間社会へのメッセージなんです。自然界の食物連鎖の中で、生きるための家族のあり方というのが、ひとつの大きなテーマになっています。ライオンの世界では、しつけもものすごくしっかりしているんです。

藤本 動物の世界では、親が身をもって生き方を示していくのですね。

金尾 つくづく親子の愛情に勝るものはないな」と感じますね。本当は子どもたちをサバンナに連れていきたい。でもそれは叶わないので、そういう場面にふれ、感じたひとりとして、このことをしっかり伝えていく必要があると思うんです。

藤本 それだけの思いを込めてつくられている絵本を、ぜひたくさんの子どもたちやお母さんたちに読んでほしいですね。

金尾 ところが残念なことに、科学絵本はなかなかなじみにくくて、「科学」という言葉自体、お母さん方には敬遠されがちなんです。そこで、数年前から図書館などで原画を子どもたちに見てもらうことにしたんです。原画には印刷の世界にはない世界があるし、文庫活動をしているお母さんたちに読んでもらえるように働きかけたんです。

藤本 皆さん熱心に読書活動をされていますからね。 

金尾 年に10冊、20冊の本を読む人に「ぜひその中に科学絵本を1冊入れてください」って。本を書かれる先生方は、私の何倍も長い時間をかけて生き物について研究し、その結果を短い文の中に凝縮させているんです。ですから行間にその息遣いがある。読んだら絶対に感動するはずなんです。

藤本 『みつばちの家族は50000ぴき』という本では、ミツバチの一生がとてもわかりやすく描かれていましたね。 

金尾 刺すので嫌われてしまいがちなミツバチですが、自然界ではなくてはならない存在です。ですからお母さん方に「ミツバチが一生かけてつくる蜜は、わずかにスプーン1杯なんですよ」とお話するんです。

藤本 伝えていくことが大切ですね。お話を聞いた帰り道、ふと足を止めて公園の木々や植え込みに目をやるかもしれません。

金尾 そこから生活が楽しくなることを実感してほしいんです。

藤本 身近な自然がどんどんなくなり、皆が忙しくしているような現代社会では、感じることができにくくなっています。たとえば、美しい夕日や星空を見ても感動しない子どもたちが増えているようです。

手づくり絵本の楽しさを伝える

金尾 読書を通してさまざまな刺激や発見を繰り返し、豊かな感性を育てたいですね。実は随分前から子どもたちと一緒に絵本をつくるという活動を始めまして、ライフワークのひとつとして今も続けています。

藤本 面白そうですね。どんなことをやっていらっしゃるんですか。 金尾恵子さんとの対談写真 その3

金尾 ある学校では小学6年生の卒業制作として、「大切なもの」というテーマで一冊の本をつくりました。またある図書館ではカエルやイモリ、ザリガニなどの生き物を観察しながら物語をイメージし、それを一冊の本にしました。

藤本 どうですか、子どもたちは意外に面白いものをつくりそうな気もしますが。

金尾 物語をつくるのも、絵を描くのも、最初は戸惑いを見せますが、子どもたちはすぐにたくましい創造力を発揮し、みるみるユニークな本ができていきます。

藤本 大人のほうはというと…?

金尾 「絵が描けない」とおっしゃる方が多いのですが、「うまく描こうとするのではなく、自由に描いてください」と言うんです。

藤本 概念的なものがあるんでしょうね。私もそうですからよくわかります。

金尾 それを崩すことができれば大丈夫。皆さんアイデア盛りだくさん、とても素敵な本をつくられますよ。

藤本 けっこう時間がかかりそうですね。

金尾 どんなパターンでもできますが、子どもは1日3時間で2回。大人は2時間を6回というのが普通です。材料は紙だけですから、ほとんど経費もかかりません。どうしても絵が描けない人には、写真やお気に入りの雑誌などの切り抜きをコラージュする方法もあります。最後は世界でたったひとつの本を手にし、皆さん感動しますよ。

藤本 お母さんたちには、手づくり絵本を子どもに読み聞かせてほしいと思いますね。おなかに赤ちゃんがいる妊婦さんたちが、生まれてくる子どものために絵本をつくって、赤ちゃんが最初に出会う本が「お母さんの手づくり絵本」だなんて素敵です。

金尾 いいですね。ぜひぜひそんな企画もやりたいですね。

藤本 子どもが生まれてからも、1歳の誕生日、2歳の誕生日と、写真や子どものらくがきなどを入れて、オリジナルブックをつくっていったらいいですね。

金尾 実際にやっていくうちに、面白さがどんどん見えてくるんです。最初に本をつくり、それから物語をイメージし、それを描いていく。何もないところから生み出すということが大切です。

藤本 時間や手間をかけてつくること、白紙の本を前にイメージをふくらませるという行為も重要ですね。

金尾 何より、本の世界に近づけることが一番です。まず、本に対する興味や関心度が全く変わってきます。同時に、いい本を選ぶ力をつくるきっかけにもなるんです。時間をかけてつくったものに対する愛着心や、ものづくりの大切さも学びます。

藤本 本当にいいことづくめですね。

金尾 毎回、最後に「ありがとう」と言われますが、こちらこそ「ありがとう」という気持ちです。最初は「生き物相手に黙々とつくっていてはダメだ。読み手である子どもたちに接したい」という単純な発想からでした。でもいざ子どもたちに接すると学ぶことばかり。第一、線ひとつ、色使いひとつも、子どもにはかないません。

日々の生活で五感を磨くこと

藤本 本来、子どもが持っている創造力や感性をつぶしてしまいがちな今の生活ですが、自然の素晴らしさや、ものをつくることの素晴らしさを伝えられたらいいですね。

金尾 身近に自然がなくなったとはいえ、耳を澄ませば鳥の声も、葉の揺らぐ音も聴こえます。暑さ寒さなど四季を感じること、五感を磨くことも大事なことだと思います。毎日の生活を楽しめるようになれば、ハチが巣をつくる材料をとりに、家のすだれをかじるカリカリという音にも気づくようになるんです。

藤本 実は私も、日々忙しくしているばかりで、ほとんど情緒的な暮らしをしていないんです。金尾さんはいかがですか。

金尾 五感を磨こうにも、都会の暮らしではなかなか難しい。私の場合は沖縄や琵琶湖へ、自分から出かけていくんです。金尾恵子さんとの対談写真 その4

藤本 とても大事なことだと思います。それでは最後になりますが、金尾さんの夢を聞かせてください。

金尾 3年前に母が亡くなり、なおさら「お母さんの素晴らしさ」を感じているんです。イモリは卵を水草にくるむように丁寧に産みつけるんです。何を見るにつけ母を思い出し、命の尊さを伝えることの意味を感じています。私にできることで、それを続けていけたらうれしいですね。

藤本 生き物の尊さを伝えることで、いろいろな気づきを与えることができると思います。大人と子どもが同じ目線で見て、感じることができるのが科学絵本の素晴らしさなのでしょう。これからも子どもたちのために、いい絵本をお願いします。今日は素敵なお話をどうもありがとうございました。

バックナンバーの一覧へ戻る

ページのTOPにもどる
老若男女響学「お母さん大学」プロジェクトはこちら
お母さん大学メルマガ藤本でこぼこ通信 登録はこちらから
『百万母力』はこちらから
『百万母力』はこちらから
『百万母力』はこちらから
『百万母力』はこちらから
ブンナプロジェクトはこちらから
池川 明先生のDVD「胎内記憶」&本のご購入はこちらから
 
株式会社トランタンネットワーク新聞社 〒221-0055 神奈川県横浜市神奈川区大野町1-8-406