藤本 いつもお世話になっています。『子育ての変貌と次世代育成支援』(名古屋大学出版会)を拝読し、学ぶところが多かったのですが、ここに至った経緯を簡単に教えていただけますか。
原田 ぼくが大阪府の保健所に籍を置いていた1982年から数年間、現在「大阪レポート」と呼ばれている子育て実態調査の集計・分析を担当しました。1980年に生まれた子どもたちを経年的に調査したものですが、その結果、育児不安や育児ノイローゼなど子育てにおける心理・社会的問題が浮き彫りになりました。そしてこのたび厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究事業)の一環として「大阪レポート」に匹敵する大規模な子育て実態調査を実施。その調査で明らかになった現代の子育て現場の実態を「兵庫レポート」として詳細に報告しました。
藤本 約20年という時間経過の中で、変化はありましたか。
原田 ぼくの想像を超えて、びっくりするほど大きな変化がありました。現実に、いつどこで虐待が起きても不思議はないような状態が広がっています。またデータから、子育て支援、次世代育成支援のあり方に多くのヒントを得ることができました。
藤本 それは興味深いですね。原田先生は普段から現場で多くの親子に接していらっしゃるので、調査以前に生の声を聞くことも多かったのではないですか。
原田 ぼくが、仕事仲間や地域でグループ活動をしている母親たちと一緒に、子育て支援のボランティア団体「こころの子育てインターねっと関西」を立ち上げたのは、1995年。「エンゼルプラン」が始まったのがこの年です。つまり、国の子育て支援策の動向を子育て現場から、母親たちの視線を通して見続けてきました。母親たちからはたくさん訴えを聞いてきましたので、感覚的にはわかっていたつもりでしたが、やはりデータで見るのとは違いました。こういうことを訴えたかったのかと「納得」できたという感じでしょうか。
藤本 それほどの変化をもたらせたのはなぜでしょう。
原田 日本社会の急変に伴い、人々の価値観が大きく変わっていったのでしょうね。親も子も随分変わってきました。学校の先生はそれを実感しているのではないでしょうか。生活環境も大きく変わりましたし、育ちの中での体験も、大きく異なったものになっています。
藤本 具体的に、どのようなことが起こっているのですか。
原田 非日常的なことでいいますと、ここ20年間で急増した不登校、多発する少年犯罪や子どもの犯罪被害、それに深刻化する子どもの虐待の現実などです。もっと深刻なのは、日常的な変化です。食事の仕方とか性の問題とかです。ゲームやケータイなどの普及が、さらに変化を加速しています。
藤本 放っておけないことばかりですね。
原田 育ちの中の体験という点では、7頁の【図1】は「自分の子どもが生まれるまでに、他の小さい子どもさんに食べさせたり、おむつをかえたりした経験はありましたか?」という問いの結果を比較したものです。「全くない」という母親は1980年に41%前後でしたが、2003年には55%に。反対に「よくあった」という母親は、22%から18%へと減少しています。
藤本 「子どもにどう接していいかわからない」という母親が多いのですね。
原田 はっきりとそう訴える母親が約半数です。また、乳幼児を知らないまま親になった母親にとって、子育てについて日常的に話し合える子育て仲間の有無は、精神的安定に大きな影響があり、その親の精神的安定はそのまま子どもとの関わり方に大きな影響を持ちます。ところが実際は、普段近所に世間話をしたり、赤ちゃんの話をしたりする人がいないという人が多いのです。
藤本 母親の孤立化が進んでいるのですね。母親にとって子育て仲間は、育児の大変さと同時に楽しさを共感できる仲間でもあり、子育てを通して一緒に泣いたり笑ったり、本当にかけがえのない存在です。
原田 8頁の【図2】のように「子育てを大変と感じますか」という質問に60%前後の母親が「はい」と答え、子育ての負担感が大きいことを示しています。【図3】では「育児でイライラすることは多いですか」と尋ねましたが、月齢と共に急増しています。とくに3歳児では1980年に「はい」が17%だったのに対し、2003年では44%と半数近くに達しています。子どもがかわいい反面、子育ての負担感、イライラ感を募らせ、育児不安を訴える母親が多いのです。