スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

本誌『ビーボラビータ』の企画アドバイザーとしておなじみ、NPO法人「こころの子育てインターねっと関西」代表の原田正文さん。長く精神科(小児・思春期)の臨床にあたり、大阪人間科学大学社会福祉学科及び同大学院でも教べんをとる日々。その傍らで日本の子育て支援を飛躍的にアップさせるものとして、親支援プログラム「Nobody s Perfect」(完璧な親なんていない!の意。以下NPという)の普及活動と質の向上に努めている。2006年には、1980年に実施された子育て実態調査「大阪レポート」を基に、2003年に行った実態調査「兵庫レポート」を『子育ての変貌と次世代育成支援』の一冊にまとめた。現代の子育てに関する課題などについて伺った。

 

大阪人間科学大学教授 原田正文さん
1945年高松市生まれ。1967年京都大学理学部化学科卒業。1980年大阪大学医学部卒業。大阪府立病院小児科、大阪府松原保健所、茨木保健所、吹田保健所摂津支所長、池田保健所箕面支所長、貝塚保健所長、池田保健所長を経て現在は、大阪人間科学大学社会福祉学科長及び大学院教授。理学博士、精神科医。「NPO法人こころの子育てインターねっと関西」代表。資格認定機構「Nobody’s Perfect Japan」代表。『育児不安を超えて』(朱鷺書房)、『学校に行きたくないと言われたとき』『不登校をプラス思考でのりこえる』『小学生の心がわかる本』(3冊農文協)、『子育て支援とNPO』(朱鷺書房)など著書多数。共著に『乳幼児の心身発達と環境』(名古屋大学出版会)などがある。

●NPO法人 こころの子育てインターねっと関西
TEL0745-75-0298
http://www9.big.or.jp/~kokoro-i

乳幼児を知らずに親になる親たち

藤本 いつもお世話になっています。『子育ての変貌と次世代育成支援』(名古屋大学出版会)を拝読し、学ぶところが多かったのですが、ここに至った経緯を簡単に教えていただけますか。 

原田正文さん著『子育ての変貌と次世代育成支援』 写真

原田 ぼくが大阪府の保健所に籍を置いていた1982年から数年間、現在「大阪レポート」と呼ばれている子育て実態調査の集計・分析を担当しました。1980年に生まれた子どもたちを経年的に調査したものですが、その結果、育児不安や育児ノイローゼなど子育てにおける心理・社会的問題が浮き彫りになりました。そしてこのたび厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究事業)の一環として「大阪レポート」に匹敵する大規模な子育て実態調査を実施。その調査で明らかになった現代の子育て現場の実態を「兵庫レポート」として詳細に報告しました。

藤本 約20年という時間経過の中で、変化はありましたか。

原田 ぼくの想像を超えて、びっくりするほど大きな変化がありました。現実に、いつどこで虐待が起きても不思議はないような状態が広がっています。またデータから、子育て支援、次世代育成支援のあり方に多くのヒントを得ることができました。

藤本 それは興味深いですね。原田先生は普段から現場で多くの親子に接していらっしゃるので、調査以前に生の声を聞くことも多かったのではないですか。 

原田 ぼくが、仕事仲間や地域でグループ活動をしている母親たちと一緒に、子育て支援のボランティア団体「こころの子育てインターねっと関西」を立ち上げたのは、1995年。「エンゼルプラン」が始まったのがこの年です。つまり、国の子育て支援策の動向を子育て現場から、母親たちの視線を通して見続けてきました。母親たちからはたくさん訴えを聞いてきましたので、感覚的にはわかっていたつもりでしたが、やはりデータで見るのとは違いました。こういうことを訴えたかったのかと「納得」できたという感じでしょうか。

藤本 それほどの変化をもたらせたのはなぜでしょう。

原田 日本社会の急変に伴い、人々の価値観が大きく変わっていったのでしょうね。親も子も随分変わってきました。学校の先生はそれを実感しているのではないでしょうか。生活環境も大きく変わりましたし、育ちの中での体験も、大きく異なったものになっています。

藤本 具体的に、どのようなことが起こっているのですか。原田正文さんとの対談写真 その1

原田 非日常的なことでいいますと、ここ20年間で急増した不登校、多発する少年犯罪や子どもの犯罪被害、それに深刻化する子どもの虐待の現実などです。もっと深刻なのは、日常的な変化です。食事の仕方とか性の問題とかです。ゲームやケータイなどの普及が、さらに変化を加速しています。

藤本 放っておけないことばかりですね。

原田 育ちの中の体験という点では、7頁の【図1】は「自分の子どもが生まれるまでに、他の小さい子どもさんに食べさせたり、おむつをかえたりした経験はありましたか?」という問いの結果を比較したものです。「全くない」という母親は1980年に41%前後でしたが、2003年には55%に。反対に「よくあった」という母親は、22%から18%へと減少しています。原田正文さんとの対談写真 その2

藤本 「子どもにどう接していいかわからない」という母親が多いのですね。

原田 はっきりとそう訴える母親が約半数です。また、乳幼児を知らないまま親になった母親にとって、子育てについて日常的に話し合える子育て仲間の有無は、精神的安定に大きな影響があり、その親の精神的安定はそのまま子どもとの関わり方に大きな影響を持ちます。ところが実際は、普段近所に世間話をしたり、赤ちゃんの話をしたりする人がいないという人が多いのです。

藤本 母親の孤立化が進んでいるのですね。母親にとって子育て仲間は、育児の大変さと同時に楽しさを共感できる仲間でもあり、子育てを通して一緒に泣いたり笑ったり、本当にかけがえのない存在です。原田正文さんとの対談写真 その3

原田 8頁の【図2】のように「子育てを大変と感じますか」という質問に60%前後の母親が「はい」と答え、子育ての負担感が大きいことを示しています。【図3】では「育児でイライラすることは多いですか」と尋ねましたが、月齢と共に急増しています。とくに3歳児では1980年に「はい」が17%だったのに対し、2003年では44%と半数近くに達しています。子どもがかわいい反面、子育ての負担感、イライラ感を募らせ、育児不安を訴える母親が多いのです。

子育て現場と専門家がつながって

藤本 20年前の「大阪レポート」で母親の育児ストレスに警鐘を鳴らしたにもかかわらず、ここまで状況が悪化しているという事実を、どうとらえたらよいのでしょう。

原田 母親だけで子どもを育てるという今の状況には無理があります。社会が大きく変化したのですから、それに見合った、子育てしやすいまちづくりが急務です。国が子育て支援に取り組み始めたのが、11年あまり前で、実際に動き始めたのは2000年前後からです。これからの子育て支援、次世代育成支援に期待したいですね。

藤本 先日、地域の子育て支援者といわれる方々を対象に「求められる子育て支援」というテーマの講師に招かれたのですが、会場でこんなやりとりがありました。「若いお母さんたちの子育てを手伝いたいけど、何をしてあげればいいかわからない」とおっしゃるので、「子どもを預かり、お母さんたちに自由な時間をあげてください」と。すると、「保険をかけていないので何かあったら大変! そんなことできません」と。

原田 そんな時代です。そのような現状をどう変えるかですね。

藤本 精神科で思春期の子どもにふれるたび、乳幼児期の子育てを何とかしなければ、という思いがありました。90年代に入り、母親たちのグループ活動があることを知って、「これは何かできるかもしれない」という思いがふつふつとわいてきたんです。しかし、市民活動はまだまだ日本では経験が浅く、これからだと思います。

原田 ご自身でネットワークをつくろうなんて、すごいですね。

藤本 仕事柄、その必要性を強く感じたし、お母さんたちのほかに、地域活動をしている人、教師や保育士、保健師など、ジャンルの違う専門家とのつながりがあったのが幸い。声をかけたらみんなが集まってくれました。専門職の世界では、学会や集会などは同職種ばかりで成り立っています。同じ職種の人が1000人集まったところで、現代の大きな問題を解決することはできません。その点ぼくたちが開催するフォーラムなどは、いろんな職種の人が集まってくれます。とくにお母さんたちの声を聞き、「ああ、そうなんだ」という気づきがたくさんあるといわれます。

公的子育て支援策の広がりの中で

原田 皆さん活発に活動していましたが、2000年になると、行政が一斉に動きだし、母親たちの活動はしぼみました。

藤本 母親たちをサポートするとして、かえって自主的な動きを鈍らせてしまったところがあるのですね。

原田 国が子育て支援に乗りだしたのはいいけれど、何をどうすればいいのかという点については、模索中ですね。サークルやひろば活動など、市民団体が開発したことを既存の古い体質の組織にやらせようとするから、なかなかうまくいっていませんね。

藤本 子育て支援ブームに「乗り遅れてはいけない」とばかり、子育ての状況を認識せずに、形だけのサービスを始めてもあまり効果はありません。原田正文さんとの対談写真 その4

原田 とはいえ、日本では行政の力が大きいため、市民活動の役割も考えさせられます。市民活動の役割のひとつとして、新しいメニューの開発があります。今、ぼくたちが取り組み始めているのは、「Nobody s Perfect」という、カナダ生まれの親支援プログラムです。これまでの「教える」という指導型のものではなく、親参加型の成人学習のプログラムです。参加者がお互いの体験を出し合うことで、実際に子育てに必要な知識や方法を学びます。そして、参加者同士のつながりを深めることにより、互いに助け合って子育てをしていくことを学びます。参加者である親自身が、安心し、自信を持って子育てをしていけるよう、資格のあるファシリテーター(※)が進行します。

※ファシリテーター/参加者の学習を促進する人のことで、参加しやす い場づくりをし、学習意欲や興味・関心を引き出す役割を担う。

藤本 NPの普及活動は、いつから始まったのですか。

原田 始まったのは4年前。1回のプログラムの参加者は12〜13人。毎週1回、8回の学びの場を提供します。その後を見ていると、本当の意味で仲間ができ、お互いに支えながら、子育てをしているようです。

藤本 どんな方々が参加するのですか。

原田 一般公募もしていますが、本来は「ぜひ受けたら」という方に、保健センターなど行政からの働きかけで参加者を募り、実施するものです。同時に、その場を提供し、進行する「NPファシリテーター」を全国で養成しています。すでに、熊本、奈良、鳥取などでは県レベルでの取り組みが始まっています。NPを根づかせることによって、日本の閉塞した現状を打破しようという目的で活動を進めています。

藤本 それにしても原田先生、大学や病院のほかにこの子育て支援活動では、目が回る忙しさではないですか。

原田 ぼくにとってはどれも欠かせないものです。大学での学生たちとのつきあいは学ぶことも多く、また研究の場でもあり、病院の外来はこの活動のベースにあるものです。始めたばかりのNPも、ここまできたら必ずきちんとしたしくみをつくるまでがんばりたいですね。

最も大切なのは親子の距離感

藤本 改めてお聞きしますが、今の日本の社会や子育ての問題をどう解決すればよいのでしょうか。

原田 母親だけの子育てには無理があります。政府が2003年に制定した「次世代育成支援対策推進法」(※)は、自治体だけでなく、企業にも「子育て支援計画」の策定を義務づけました。父親の育児参加といっても、一足飛びに改善されるものではありませんが、「働き方の見直し」を企業に求めるという方向は望ましいものです。国の施策はすぐには効果が出ませんが、5年後くらいには効果があらわれてくるものです。今後に期待しますが、乳幼児との接触体験が少なく、自己実現、承認要求の強い現代の母親たちを上手にサポートするためには、当事者の声をよく聞くことが大切でしょう。一層の努力や改善が必要でしょうね。

※次世代育成支援対策推進法/国や自治体、企業が一体となり、子どもを育てる家庭を支援する取り組みのこと。301人以上の労働者を雇用する事業主は、仕事と子育ての両立のために必要な雇用環境の整備等をすすめ、「一般事業主行動計画」を策定することを義務づけられた。

藤本 親たちにアドバイスはありませんか。原田正文さんとの対談写真 その5

原田 子どもにはそれぞれに個性がありますから、育児書通りに育つわけではありません。育児書を参考にしながら、グループ子育てをするのがいいですね。子どもには育つための環境が必要です。たとえば夜寝る時間や食事など、子どもの育ちに見合った環境づくりに努力する必要があります。そして何よりも、あたたかい安心できる家庭づくりが大切です。

藤本 今号の特集では「親と子のコミュニケーション」がテーマですが、親はどんなことに注意したらよいのでしょう。

原田 大切なのは親子の距離感です。子どもは本能的に親の期待に応えようとします。そのため、親子の距離が近過ぎてもしんどいです。かといって、遠過ぎてもいけません。家庭は、子どもが安心して自分を出せる場にしたいですね。そうはいっても、親も初めての子育てです。試行錯誤しながら、親子共々育っていきたいですね。

藤本 最後に、夢を聞かせてください。

原田 今はNPに力を入れてやっていますが、これがすべてではありません。先日カナダに視察に行きましたが、十代で子どもを産んだ母親だけの施設がありました。日本でもこうした施設があれば、どれだけの人が救われるかわかりません。容易なことではありませんが、海外のいい所はどんどん取り入れていきたいですね。

藤本 原田先生の活動は終わりのない旅のようですが、どうか日本の未来のために、ますますのご活躍を期待しています。今日はどうもありがとうございました。

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