藤本 道徳の授業お疲れ様でした。今日は、まさか校長先生の授業を拝見できるとは思ってもいませんでしたが、先生の子どもたちへの思いの一端を見せていただくことができたように思います。ありがとうございました。
田中 普通は、あまり校長の授業なんてないでしょう。でもうちの学校は、先生方が時々こうして、私にまで授業の機会を与えてくれます。私にとっては直接子どもたちに接することができるなんて、こんな楽しいことはなく、うれしくて飛び上がりたいほどです。しかも今回は「職業の魅力と生き方」というテーマと聞いて、「やらせて、やらせて!」と2つ返事で応えました。 
藤本 最近は、子どもたちに「職業観」がないといわれていますが。
田中 子どもたちが「人」に出会う機会がないのでしょう。とくにうちの学校は、与えられた環境などもあって、将来は医者や弁護士など、決められた道を進む子どもが結構いるんです。
藤本 親の期待もあるのでしょうね。
田中 子どももそこに疑問を感じません。ですから、先ほどの授業で国勢調査の「職業分類」を示したように、「世の中にはこれほどたくさんの仕事がある」と知ってほしいんです。
藤本 とても大切なことですね。先ほど、仕事には3つの条件があるとお話されていましたね。
田中 生活を支えるための収入と、社会貢献、そして、大切なのは自己実現だと思っています。
藤本 そこに自己決定の意味があるんですね。
田中 人生というのは、限りない自己決定の連続といえます。そして教師の仕事は、さまざまなモノや人との出会いの場をつくることだと自負しています。高校2年生の子どもたちと話していて、自分が何を目指したいのか、大学の何学部に進みたいのかわからないという子が多いことに愕然としました。そのためには、中学1年の今から職業に意識を持って生きること。自分の好きなことを見つけなければなりません。まずは、職業のイメージをなるべく多く持たせたいんです。
藤本 校長先生がそんな思いで、子どもたちに接してくださるなんて最高ですね。
田中 普段から子どもたちには、母親のような気持ちで接しています。一人ひとりを見ていて、少しでも気になる子どもは、抱きしめてあげるんです。子どもは「自分を気にしてくれているんだ」と知ることで、安心するんです。
藤本 子どもは、本当に思ってくれている人のことは、よくわかりますからね。
田中 年賀状も一枚一枚、その子のことを思って、びっしり書くんです。
藤本 お忙しい校長先生がそこまで!?
田中 一枚のはがきかもしれない。でもこれが強いつながりとなって、受け取った子どもたちは、ちゃんとメッセージを送り返してくれます。こんな風に、日々人間として子どもたちと向き合えることがうれしくて、うれしくて。
藤本 校長先生ではなく、人間としてという部分をきっと子どもたちは理解しているでしょう。
田中 実は、この3月で平野中の校長を退職します。3年という短い間でしたが、学長がこんな素敵な最後の舞台をつくってくださったことに、とても感謝しています。
藤本 それは残念ですね。話は遡りますが、最初に校長のお話がきたときはどう思いましたか。
田中 「校長なんてとんでもない」と。でも考えたら、日ごろ学生たちに「人生はチャレンジの連続。変わり続ける自分を発見することこそ人生の楽しみであり、そこに人間の本質がある!」と言っていました。だとしたら、女性だから、自信がないから、と言い訳はできません。30分後には「お引き受けします」と言いました(笑)。
藤本 勇気あるご決断ですね。でもご家族や周囲は何ておっしゃいました?
田中 夫は「なんで相談してくれないの?」と。「だって私の人生ですよ」で、終わりです。今は毎朝5時に起きて、朝ごはんとお弁当をつくりますが、それ以外の掃除、洗濯、買い物、夕ごはんは、みんな家族にやってもらっています。
藤本 協力的なんですね。