スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

「住むことが楽しい」と、誰もが言える社会に  大阪教育大学教授  田中恒子さん

住居学のスペシャリストとして長年研究を続ける傍ら、教育大学で教師を目指す学生に教べんをとり、中学校の校長としての仕事もこなされる田中恒子先生。朝は中学校の正門に立って、登校してくる生徒一人ひとりに満面の笑顔で「おはよう」と呼びかける。定年退職を前に「職業の魅力と生き方」をテーマにした「道徳」の授業におじゃまして、住み方、生き方のヒントを伺った。

 

大阪教育大学教授・前 大阪教育大学附属平野中学校校長 田中恒子さん
たなか つねこ  1941年大阪市生まれ。1963年大阪市立大学家政学部住居学科卒業。1965年京都大学工学部建築学科文部技官として勤務。その後、奈良教育大学教育学部講師、助教授を経て同学部教授に。現在は、大阪教育大学教授、大阪教育大学附属平野中学校校長を兼任。著書は「家族と健康にやさしい住まい」「育ちあいの家庭をつくる」「恒子とRANKOの住み方ノート」「恒子の子育てノート」(以上かもがわ出版)、「あなたの住み方再発見」(たいせい)「新しい住生活」(連合出版)ほか。新建築家技術者集団代表幹事、くらしと協同の研究所研究委員など要職を兼務。女性研究者の先駆者として、若手研究者の育成等、現在も活躍中。

人生はチャレンジの連続!

藤本 道徳の授業お疲れ様でした。今日は、まさか校長先生の授業を拝見できるとは思ってもいませんでしたが、先生の子どもたちへの思いの一端を見せていただくことができたように思います。ありがとうございました。

田中 普通は、あまり校長の授業なんてないでしょう。でもうちの学校は、先生方が時々こうして、私にまで授業の機会を与えてくれます。私にとっては直接子どもたちに接することができるなんて、こんな楽しいことはなく、うれしくて飛び上がりたいほどです。しかも今回は「職業の魅力と生き方」というテーマと聞いて、「やらせて、やらせて!」と2つ返事で応えました。 田中恒子さんとの対談写真 その1

藤本 最近は、子どもたちに「職業観」がないといわれていますが。

田中 子どもたちが「人」に出会う機会がないのでしょう。とくにうちの学校は、与えられた環境などもあって、将来は医者や弁護士など、決められた道を進む子どもが結構いるんです。

藤本 親の期待もあるのでしょうね。

田中 子どももそこに疑問を感じません。ですから、先ほどの授業で国勢調査の「職業分類」を示したように、「世の中にはこれほどたくさんの仕事がある」と知ってほしいんです。

藤本 とても大切なことですね。先ほど、仕事には3つの条件があるとお話されていましたね。

田中 生活を支えるための収入と、社会貢献、そして、大切なのは自己実現だと思っています。

藤本 そこに自己決定の意味があるんですね。

田中 人生というのは、限りない自己決定の連続といえます。そして教師の仕事は、さまざまなモノや人との出会いの場をつくることだと自負しています。高校2年生の子どもたちと話していて、自分が何を目指したいのか、大学の何学部に進みたいのかわからないという子が多いことに愕然としました。そのためには、中学1年の今から職業に意識を持って生きること。自分の好きなことを見つけなければなりません。まずは、職業のイメージをなるべく多く持たせたいんです。

藤本 校長先生がそんな思いで、子どもたちに接してくださるなんて最高ですね。

田中 普段から子どもたちには、母親のような気持ちで接しています。一人ひとりを見ていて、少しでも気になる子どもは、抱きしめてあげるんです。子どもは「自分を気にしてくれているんだ」と知ることで、安心するんです。

藤本 子どもは、本当に思ってくれている人のことは、よくわかりますからね。

田中 年賀状も一枚一枚、その子のことを思って、びっしり書くんです。

藤本 お忙しい校長先生がそこまで!?

田中 一枚のはがきかもしれない。でもこれが強いつながりとなって、受け取った子どもたちは、ちゃんとメッセージを送り返してくれます。こんな風に、日々人間として子どもたちと向き合えることがうれしくて、うれしくて。

藤本 校長先生ではなく、人間としてという部分をきっと子どもたちは理解しているでしょう。

田中 実は、この3月で平野中の校長を退職します。3年という短い間でしたが、学長がこんな素敵な最後の舞台をつくってくださったことに、とても感謝しています。

藤本 それは残念ですね。話は遡りますが、最初に校長のお話がきたときはどう思いましたか。

田中 「校長なんてとんでもない」と。でも考えたら、日ごろ学生たちに「人生はチャレンジの連続。変わり続ける自分を発見することこそ人生の楽しみであり、そこに人間の本質がある!」と言っていました。だとしたら、女性だから、自信がないから、と言い訳はできません。30分後には「お引き受けします」と言いました(笑)。

藤本 勇気あるご決断ですね。でもご家族や周囲は何ておっしゃいました?

田中 夫は「なんで相談してくれないの?」と。「だって私の人生ですよ」で、終わりです。今は毎朝5時に起きて、朝ごはんとお弁当をつくりますが、それ以外の掃除、洗濯、買い物、夕ごはんは、みんな家族にやってもらっています。

藤本 協力的なんですね。

私的子育てと、社会的子育て

田中 うちでは、私が一番家にいる時間が短い。だったら、家にいる人がするのが当たり前。子どもは2人とも男の子ですが、「家事労働のできる男を育てる」というのが私の子育てのポリシーでした。台所仕事も母親を手伝うという発想ではなく、人間として生活的に自立していくために必要な家庭教育。ですからわが家では、夫が洗濯物を干し、大学生の息子が母親のパンツをたたんでいる光景を見ることができますよ。

藤本 男の家事といえば、いまだに、ごみ捨てや洗い物がせいぜいという現状ですよ。 田中恒子さんとの対談写真 その2

田中 女性が大学に進むのも珍しい時代、大学で住居学と出会い、生涯その研究を仕事として続けたいと思っていた私ですから、結婚は考えていなかったんです。ところが夫は、そんな私に「君には一生働き続けるだけのファイトがある」、こう言ってプロポーズしてくれたんです。

藤本 結婚したら、女性は家庭に入って家を守るという時代ですよね。

田中 私は「一生仕事がしたい」と周囲に宣言していましたので、夫はそれを評価したのでしょう。結婚は一般論で語るものではありませんから、結婚観、世界観が同じだった私たちは、考えればラッキーでした。

藤本 共通の価値観を持ったお2人はきっと、出会うべくして出会ったのですね。

田中 運命かもしれませんね。私たちは、5つの約束をして新婚生活をスタートしたんです。1つ目は「国民の生活向上につながる研究をしよう」。2つ目は「家事は2人でしよう」。

藤本 お互いがやらされているという気持ちを持たずにできれば、時間も合理的に使えて、得策ですね。

田中 夫も大学教授なので、私たちの場合は、常に研究時間を確保したいという思いがありましたから。3つ目は「子育ては2人でしよう」というものですが、保護者会やら何やらで、「なぜ共働きをするのか」「仕事と家事・育児は両立できるのか」など、これまで何度となく議論を重ねてきました。

藤本 それに関しては、いまだに同じ議論が繰り返されていますね。

田中 そこには、たいがい「家事もまともにできない女が仕事をするな!」なんて言う男性がいます。だから私は「家事もまともにできないような男に仕事ができるか!」って返すんです。

藤本 そう言えたら、気持ちがいいですね。

田中 反論できる人はなかなかいませんよ。子育てには、家事としつけの「私的子育て」と、PTA活動や子ども会活動などの「社会的子育て」の2つがありますが、わが家ではこれも、2人で積極的にやってきました。

藤本 中には仕事を理由に地域活動に参加しない人もいますが、働いているからこそ、地域をしっかり見ないといけませんね。

田中 「定年退職しても研究は続けよう」という4つ目の約束は、生き方のスタイルです。自分の生き方を分析して、生きるスタイルを身につけたい。先ほどの進路の話ではありませんが、人生は自分で切り拓いていくことが大事です。

住み方は生き方の表現である

藤本 高齢化社会ですから、これからますますそんな生き方が求められるのでしょうね。

田中 5つ目は、「切磋琢磨してやっていこう」。馴れ合いになってしまったら夫婦である意味はない。相互に批判し合うことで、人間として高め合い、育ち合うという関係をつくっていけるのだと思います。互いに関わり合う中で、「変わり続ける自分」に出会えることが楽しいのです。

藤本 ご専門の住居学について教えてください。

田中 学問の世界では、住居学、家政学なんていう分け方をしますが、これらはすべて人生学といってもいいのではないでしょうか。「住居学って何ですか」という質問を受けることがよくありますが、「住み方は、あなたの生き方の表現です」とお話します。食べることや着ることと同じように、住むことを楽しいと思えるような世の中にしたいというのが、私の願いであり、どう住めば、家族が豊かに暮らせるかを考えるのが、私の仕事です。

藤本 先生が長年なさってきた「住み方調査」について、教えていただけますか。

田中 正直いって、心臓に毛が生えていないとできないくらい大変な仕事。見ず知らずのお宅を訪問して「日本の住宅研究のために、あなたのお家を見せてください」と言って上がり込み、押入れの中まで見せていただくのです。清家清設計の家から3畳1間の木造アパートまで、日本の住宅を幅広く調査、研究してきました。

藤本 その結果、どんなことがわかるのですか。 田中恒子さんとの対談写真 その3

田中 調査でその人の「住」への欲求を知り、それを叶える次の住まいを自ら考えさせることができます。何百というケースを見てきた私は、玄関を一歩入っただけで、その人の暮らしぶりや生き方が見えてきます。

藤本 家庭訪問の日だけ片付けてもだめなんですね(笑)。

田中 すぐにわかります。「住み方がていねいな人は生き方もていねいである」というのは、ひとつの結論です。それから、よく「物が多くて困る」とおっしゃる方がいますが、物を買うという消費行動もすべて自分が決定してやっていることです。空間には限りがありますから、物が多いなら買わなければいい。物を増やしているのは自身であるという自覚を持つことです。

藤本 ご自宅には、お客様も多いそうですね。

田中 こういうことを話すと、「それを実践しているお宅はないか」と言われるので、それなら、わが家を見せるのが一番早い。ですからうちはいつもお客様でいっぱい。立派な家具や食器があるわけではありませんが、開放感のある家で愛着のある物に囲まれて暮らしています。

簡素な贅沢と、愛着の豊かさ

藤本 「愛着」というのは素敵な言葉ですよね。

田中 日本人もヨーロッパ的な「簡素な贅沢」を学んでほしいと思います。物がたくさんあればいいとか、高価なものが素晴らしいとかではなく、自分の感性に合った、愛情のわく「いい物」を大切に使っていくことです。私は、何かを買うときは必ず、長年使えるシンプルで飽きのこないものを吟味して選びます。洋服も、流行や体形に左右されないシンプルなものです。

藤本 耳が痛いですね。私は、物も洋服も、買ったあとで後悔することがよくあります。生活や自分自身を見つめきれていないのでしょうね。

田中 浪費的な生活様式は、暮らしを乱雑にするばかりでなく、地球資源の無駄遣いであることを自覚してほしいですね。ですから私は、「簡素な暮らしこそ最高の贅沢であり、愛着こそ豊かさである」と、言い続けているのです。

藤本 先ほど「開放感のある家」とおっしゃいましたが、その意味を教えていただけますか。

田中 わが家は一室住居型。玄関を開けたらガラス戸の向こうに中庭をはさんで広間と食堂があるんです。つまり「いってらっしゃい」「おかえりなさい」の関係が見える設計になっています。そして、トイレを除くすべてが引き戸になっていて、全部を開け放てば家じゅうがひとつの空間になります。引き戸は「開いていても閉まっていてもいい」という人間関係をつくります。私はどちらかというと、プライバシーを強調する現代住居のあり方に疑問を持っています。

藤本 理想的な家とはどんなものでしょうか。

田中 家庭によって、答えは異なります。子ども部屋はあってもいいと思いますが、玄関からいきなり個室に行くのではなく、広間を通って子ども部屋へという流れがつくれたら理想的です。部屋に鍵をかけるなんてもってのほか。間取りよりは、家族が自由に行き来できる家族関係が先でしょう。

藤本 先生のお宅には、現代アートといわれる美術品がたくさん飾られているそうですね。

田中 愛着のある物に囲まれた、居心地のいい空間。現代アートのコレクションは、私の趣味でやらせてもらっています。

藤本 収集を始めたのは、何年くらい前ですか。

田中 20年前に住宅ローンを終え、何かいいお金の使い道はないかと考えたのがきっかけでした。これには、若手芸術家を支援する、文化財を保存・継承するなどの目的があるんです。作家とコレクターである私たちは、同じ時代をつくっている表現者です。作品の知的所有権は作家にあり、物的所有権はコレクターにある。それと同時に、鑑賞権は国民にあるわけですから、いい物はどんどん世に出して、人に見せていくことが社会的な意味でもあると思っています。

藤本 学校の子どもたちは、先生の美術コレクターとしての一面をご存知ですか。

田中 ええ。先日も2年生を集めて、美術の授業をやりましたよ。子どもたちは作品に触れたり眺めたりして、五感で楽しんでいましたよ。

藤本 子どもたちに、創造することは、楽しいことだと伝えられたらいいですね。

田中 「生きることは、生活を創造すること」です。日常生活は文化創造だということを、子どもたちにも伝えたいんです。 田中恒子さんとの対談写真 その4

藤本 附属中学校という環境の中で、そういうことを学んでいける子どもたちは、本当に幸せですね。最後に、教育大学で教師を目指している学生たちにも、何か一言いただけたら。

田中 あきらめなければ、道は絶対に開けます。私自身の経験ですが、つらいことがあるたびに、「今日は辞めないでおこう」と自分に言い聞かせてきました。その結果、今がある。目的があってがんばっていれば、必ず未来へと続きます。

藤本 今日は、ためになるお話をたくさんありがとうございました。退官されてなお、子どもたちのために、どうぞお元気でご活躍ください。

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