上田 子どもを持って初めて、今の社会が、いかに子育てにやさしくないかを痛感しました。高熱の子どもを連れ、通勤電車の窓でおでこを冷やしながら、出社したこともありました。
藤本 子どもの病気が一番つらいですよね。
上田 病気もそうですが、急な残業も同じですね。そんな毎日の中で、「仕事と子育ての両立で悩んでいるのは自分だけではないはず。ワーキングマザーが悩みを打ち明けたり、情報収集できる組織をつくろう!」と思い立ったんです。
藤本 それが、マザーネットの前身でもある「『キャリアと家庭』両立をめざす会」ですね。
上田 1994年のことでした。最初はまさか、こんなに反響があると思ってはいませんでした。
藤本 まだお子さんも小さかったでしょう。
上田 会社勤めと子育て。その傍らで会の運営です。会の発足記事が一般紙に載ると、翌日から自宅の電話が鳴り続け、日に20通もの手紙が!
藤本 どんなお手紙ですか。
上田 便せん十数枚に思いがいっぱい。「誰かに聞いてもらいたい、自分のことをわかってもらいたい」…そんな手紙です。
藤本 どのようなアドバイスをなさるんですか。
上田 上司のことで悩んでいる人には「3年で代わるわよ」とか、保育園探しを始める人には「入園審査は化粧をしないで行って、働かないと食べていけないんですと訴えて」とかって(笑)。
藤本 的確なアドバイスですね。その後、上田さんが退職を決意されたきっかけは?
上田 あるとき重要な会議があったんです。私が話す順番が回ってこない、でも保育園のお迎え時間は迫ってくる…。で、仕方なく、退席を申し出たんです。すると上司が「子どもを袋に入れて、保育園の門にでも吊っておいてもらえ!」と。
藤本 ひど過ぎる! でも現実かもしれません。
上田 多くの男性が「働くお母さん」は悪くないが、「部下には困る」が本音です。
藤本 何歳のときですか。
上田 35歳で会社に疑問を持って創業塾に通いだし、起業したのは39歳のときです。やりたいことがあったわけではないんです。ただ、お母さんたちが安心して働ける会社、それだけでした。
藤本 創業のときに、お子さんたちとのエピソードがあるそうですね。
上田 子育ての毎日で欠かさずやっていたことといえば、絵本の読み聞かせでした。すると、あるとき2人が、ごく自然に「夢」を語りだしたんです。「ぼくはイチロー選手みたいになる!」「ぼくは新庄選手みたいになる!」。2人とも野球をやっていて、それぞれ大ファンだったんです。「お母さんの夢は?」と言うから「子どもの参観に行けるような会社をつくる!」って言ったんです。
藤本 お子さんたちに宣言しちゃったんですね!
上田 しばらく経ったある日、長男が「お母さん、ぼくイチローみたいに才能ないから2番目になりたい夢を考えるよ」と言いだしたんです。すかさず「何言うてんの? 2番目の夢を考えたら、1番目の夢は叶わへん。そんなに簡単にあきらめたらあかん!」と言ったんです。そしたら翌日「そういうお母さんも会社つくる言うたのに、あきらめたんか? 最近何も言わへんやん」。実は、会社を辞めることに夫が猛反対だったんです。
藤本 うちと同じ。私の場合は、専業主婦でいながら母親サークルで新聞をつくっていたもんですから、うちの夫も「会社なんてしなくていいやろ。今のままで十分楽しめるやろ」って(笑)。
上田 起業支援もやっていますが、夫も賛成という人はあまりいませんからね(笑)。
藤本 ええ、あまり聞いたことがないですね。私の場合はむしろ、反対されたから起業した、というのが真実です。
上田 銀行員の夫は「会社を勤め上げてこそ、価値のある人間になれる」なんて言うんです(笑)。
藤本 お子さんたちの話の続きを…。
上田 「会社をつくるにはお金がかかるんよ、お母さんはお金を持ってないから今は無理やわ」と言うと、長男がおこづかいを貯めた1200円を「これで会社つくって」と持ってきたんです。
藤本 お母さんのため…なんて、うれしいですね。
上田 「でもちょっと足らへんなぁ」と言うと、今度は次男が貯金箱から676円を持ってきました。そのお金というのは…、「『キャリアと家庭』両立をめざす会」の情報誌を封筒に入れて切手を貼る仕事、1通1円でやってもらっていたんです。
藤本 676通分の仕事?
上田 「これでも足らへんわ」と言うと、今度はお年玉を貯めた預金通帳を差し出してきたんです。2人分合わせて25万円。ここでやめたら、この子たちはきっと夢をあきらめてしまう。「よし、絶対に起業しよう!」と決めました。
藤本 ワーキングマザーに焦点を当てたのは、ビジネスとしてもいい視点ですし、どれほどお母さんたちを助けるか。社会的な仕事だと思います。
上田 社会はまだまだ男性優位で、お母さんたちの就業状況はなかなかよくなりません。ひとりでも多くのお母さんの力になれたらいいなって。
藤本 最近は、父親の育児参加率が上がっているのではないでしょうか。
上田 確かに「子どもをお風呂に入れたい」お父さんは増えていますが、なかなか実現できないようです。リストラが進み、結果として一人当たりの労働時間は増えていますから。
藤本 社会の「働く女性」への目も、少しはやわらかくなったと思いますが。
上田 現実はまだまだですよ。いまだに事件があるたびに、マスコミは「お母さんが悪い」と書きますからね。お母さんたちが「しんどい」と言える場所がないんです。
藤本 子どもはかわいいときばかりじゃないし。
上田 子どもは、お母さんがイライラしているときに腹が立つことをするし忙しいときに面倒なことを起こす。そういうお母さんたちの「かけこみ寺」になりたいんです。
藤本 専業主婦の利用者も多いそうですね。
上田 孤立した子育ての毎日で、公園デビューができない人もまだまだたくさんいます。
藤本 お母さんたちも、コミュニケーションがあまり上手ではないですからね。
上田 最近は、小学生くらいの子どもを持ったお母さんたちの利用率も高いですね。
藤本 どんなサポートをするのですか。