黒田 面接では「親や家族に迷惑をかけたから、もう一度がんばって出直したい」と、時には涙を流して更生を誓う人もいます。
藤本 そんなときは、どういう言葉をかけるのですか。
黒田 「一生懸命育ててもらったのにこんなことになって、親の苦労も知らんと。親はな、哀れと思って引き取ってくれるんや。親子とはいえ、わがままは許せへんで」と、厳しく言うことが多いですね。
藤本 黒田さんから言われたら、それは心に響くでしょうね。
黒田 先日も4歳と2歳の子どもがいて、内妻のところへ帰るという受刑者に、「はよ改心して、きちんと仕事を見つけて籍を入れんとあかん。子どもを育ててあんたを待つなんていう妻はおらんよ」と言ってやりましたら、大きくうなずいていましたよ。
藤本 厳しさの中にある本当のやさしさ。黒田さんの人間性を感じるのでしょうね。
黒田 ここは26歳までの入所ですが、結婚して子どものいる人もいます。それぞれのケースに応じてですが、人生最高の幸せは「三惚」だとよく話しています。ずっと前のことですが、四国・高松の琴平のお土産に「三惚」というお菓子をいただきました。
藤本 三惚?
黒田 「三惚とは、仕事に惚れ、女房に惚れ、ところに惚れる。これ人生最高の幸せ」と書かれていたのです。私はこの先もずっと、三惚に徹して生き続けたいと思っています。
藤本 根本的には、やはり家族や周囲の愛情が大切なのですね。
黒田 親のない子、知らない子もずいぶんいます。家庭環境が複雑で、「崩壊家庭」とでもいうのでしょうか。やはり、根源が気になるのですが…。
藤本 面接を受けた方のその後というのは、どうなっているのでしょう。
黒田 出所後の彼らについては、一切わかりません。中にはまた罪を犯して戻ってきた人もいれば、もちろん幸せに暮らしている人もいるでしょう。それでも過去にはふれませんから、一方通行の地味な仕事です。
藤本 形になって見えないというのは、歯がゆい部分もあるのでしょうね。
黒田 「私たちの仕事は、水の中に絵を描くようなもの」と、同じ面接委員の人とよく話すんです。何事もあきらめてしまいがちな世の中ですが、一人ひとりに心を込めて接する。わずか20分ですが、一生懸命に相手を思って話すんです。「今からでも遅くない。もういっぺんやってみい」と。
藤本 黒田さんのような気持ちで、みんなが子どもたちに向き合っていたら、社会は変わるでしょう。
黒田 児童虐待や悲惨な事件や事故が次々と起こりますが、関わっている大人たちがその場その場でもっと真剣になっていれば、起こらなかっただろうと、時々思うこともあります。世の中のすべてのことが通りいっぺんでなく、もっとていねいに、もっと本気になったらと、しみじみ思います。
藤本 明治、大正、昭和、平成と4つの時代を生きてこられた黒田さんですが、昔と今では、何が変わりましたか。
黒田 古い明治の人間です。生まれた翌年に日露戦争が起きました。国は貧乏でしたから、質素、節約、勤勉、貯蓄。感謝と辛抱が信条でした。けれども人々には夢があった。希望や夢に向かって努力するのが当たり前の時代でした。ところが、質実剛健も誠実勤勉も死語に等しくなった今は、消費は美徳なりと。価値観を否定するのではなく、互いに理解を深め、歩み寄っていくことが大事と、自身を洗脳しています。
藤本 時代は変わっても、変わってはいけないものもたくさんあります。
黒田 大切なのは、モノではなく人の心です。何事につけ、教育が基本であり、教育は「人づくり」だと思います。
藤本 私自身、人に伝えるという意味で教育という仕事に関わらせていただいていますが、今は現場も大変です。
黒田 「教育」の意味を間違ってとらえている人があまりに多い。親ごさんもあまりわかっていないようですが、今は、就職のための教育になってしまっています。昔の教育には哲学がありました。