藤本 若くて正義感に燃えた先生、周りの反発はありませんでしたか。
原田 ほかの先生よりは、意気込みが強かったでしょうか。周囲の先生は、協力する人、知らんふりの人、出る杭を打つ人、いろいろです。四面楚歌の経験もしましたが、現状を改革するわけですから、最初から覚悟してました。
藤本 保護者の反応はどうでしたか。
原田 ぼくがやることに対して、3分の1はわかってくれる人。3分の1は説明すればわかる人、1割程度は黙って見てる人。ですから、情報開示は徹底的にやりました。
藤本 具体的には、どんな風に?
原田 全校集会や入学式などあらゆる機会に人前でしゃべります。それから文字にして発信する方法。「忘れ物が多いので家庭でも注意してください」というプリントを事前に出しておく。Aくんが厳しく叱られた。でもあの子は100回も忘れ物をしたんだよといったら、親もみな納得します。それから、相手の心をつかむためには、ぼく自身の雰囲気づくりも大切です。体育教師だからといってジャージ姿ではなく、カラーのワイシャツにネクタイをビシッと締めて、くつはいつもピカピカに。プレゼンテーションは身振り手振りを交え、とにかく誠実に。生徒も親も先生も、それは同じです。
藤本 相手へのマナーと敬意ですね。でも、先生ががんばればがんばるほど、空回りするというようなことも聞きますが。
原田 こちらの思いを伝えるのですから、子どもに「いきなり話を聞け」では無理でしょう。子どもたちは、無気力、無関心。遅刻、忘れ物は当たり前。授業中に平気で寝る、歩き回る、友だちとしゃべる、教室から出ていく。こうした無秩序なけじめのなさが、いじめや暴力などを引き起こし、犯罪にまでエスカレートする。
藤本 どうすればよいのでしょう。
原田 子どもたちは「心のコップが下向きになっている」状態です。受ける側に準備がなければ何も注げない。まずは、コップを上向きにすることです。
藤本 こちらを向かせることですね。
原田 人の話をきちんと聞く態度を養う「態度教育」が必要です。@くつをそろえるAいすを机の中に入れる Bカバンを立てる C元気のいい弾んだ「ハイ」という返事 D人より早くあいさつをする E背筋をピンと伸ばした聞く姿勢。
藤本 どれも基本的なことですね。
原田 修学旅行でくつをそろえたら、旅館の人にほめられる時代です。とにかく根気強く指導する。もちろん私が実践して、根比べです。できたらほめる。できなかったら、教える。この繰り返しです。
藤本 先生も体力勝負ですね。
原田 「あかん、先生には勝てん」と思わせたら勝ちで、みんなきちんとやれるようになります。大切なのは、指導を途中でやめないこと。やらせきる教師の態度が、自立した人間を育てるのです。
藤本 子どもたちは変わりましたか。
原田 最初は「厳しいからイヤ」と言っていましたが、少しずつ私の本気を感じてくれるようになりました。コップを上向きにすることができたらあとはラクです。自立した生徒は、リーダーシップを発揮して、みんなを引っ張ってくれました。
藤本 陸上部が日本一になったのも、同じですね。
原田 初めに学校の周りの情報を集めて回りました。校区には歓楽街もあり、ゲームセンターやカラオケボックスなどもたくさんありました。決して環境がいいとはいえません。そのような状況の中で、子どもたちには「夢」と「リーダーシップ」、そして「誇り」が必要だと感じました。「何とかしてこの3つを心のコップに注いでやりたい。そうすれば、必ず子どもたちは変わるだろう」。これが基本方針になりました。
藤本 どんな指導をされたのですか?
原田 毎朝6時に出勤し、部活動の朝練習のあとで校門に立ち、全員に大きな声であいさつをし、身なりや遅刻の指導を繰り返しました。とにかく厳しく指導し、ようやくぼくの考えが浸透し始めたころのことです。一部の保護者から反発を受け、説明のための集会を開くことになりました。
藤本 そこでは、どう説明されたのですか。
原田 甘えばかりでは子どもは育たない。今、必要なのは厳しさです、ときっぱり。
藤本 子どもたちの反応はどうでしたか?
原田 集会後、何人かの生徒に呼ばれました。弱い立場の子どもたちでした。「先生がんばってな。そしたらぼくら陸上部に入るから」と。涙ながらの訴えを聞き、「よし、一緒にがんばろう」と。そして、全校生徒への説明会のあと、思いきって宣言したのです。「この学校を、絶対日本一にする!」。「夢」と「誇り」を持たせてやりたかったのです。
藤本 ここからが始まりですね。
原田 さっそく部員集めです。「お宅のお子さんを日本一にしますので、陸上部に入れてください」と頼んで回ると、親たちは「先生、うちの子は無理ですわ」と一言。「子どもには可能性があるんです」と言っても誰も信じてくれません。ところが、ぼくの「日本一宣言」に共感した生徒が、少しずつ集まってきました。
藤本 いよいよあとには引けませんね。
原田 実績も方法論もないところから「日本一」をつくるには…。ポイントは3つありました。まずは「親や子の心に訴える教育を」して「部員の創造」をはかること。より強いクラブにするには、多くの部員確保が必要です。保護者会はもちろん、地域の掲示板なども利用して「陸上部」の広報活動に努めました。4年目には地域の小学生陸上クラブを立ち上げ、月に2回は学校に呼んで、陸上部員たちが小学生にていねいに指導しました。すると、私学へ行っていただろう子どもたちの割り合いが減り、うちの学校に入学してきたのです。
藤本 経営的な視点ですね。
原田 次に大切なのは「ニーズに応える」ということ。保護者が学校に求めているのは、勉強ばかりではなく、安全で平和な学校です。また、学校で子どもを「しつけ」てほしいというのです。そこで、徹底した態度教育で「安全と秩序」をつくり、文武両道のニーズに応えるために放課後は陸上部の練習も90分に。これなら塾にも通えるし、夏休みの家族旅行にも行ける。「部活動もよし」と、親は許可します。
藤本 親の安心と応援は大事ですね。
原田 最後にもうひとつ、この学校ならではの「個性」をどう出すかです。グラウンドが狭いという特徴をプラスに考えると、目がいきわたる。狭いグラウンドを工夫し、走り幅跳びや砲丸投げなど、フィールド競技に力を入れました。
藤本 それも戦略ですね。
原田 ぼくには経営感覚がありませんので、いろいろな方に教えていただき、また自分でもたくさんの本を読んで勉強をしました。関西にある企業家の勉強会などにも参加しました。そこでは、素晴らしい知恵とヒントをいただきました。その上で現場の経験を積み重ね、やがて、教育に欠かせないものが見えてきたのです。