藤本 「ゆとりの学習」を目指した完全学校週5日制も、実施されて随分経ちますが。
大平 いい大学、いい会社に入ることが目的であるならば、「ゆとり」とはいえません。反対に塾だ何だと、子どもたちを苦しめています。親たちも、もうそんな時代じゃないと頭ではわかっているのですが、なぜか自分の子の場合は例外なんですね。
藤本 週5日制で、親も、休日をどう過ごそうかと悩んでいます。
大平 今は、家庭での教育力が極端に落ちています。親の勝手で子どもに「やれ、やれ」ではなく、一緒に何かを体験することが必要です。
藤本 「生きる力」をつけるには?
大平 自然体験や本物体験を積むことでしょう。生き物もそうですし、ミュージカルやアート、文楽などの伝統文化もそうですね。幸い大阪には、そういうものにふれられる環境がたくさんあります。
藤本 感性というか、子どもが本来持っている力を引き出すということでしょうか。
大平 都会の子どもたちに農業や山での体験をさせることで、学べるものは大きいでしょう。木登りに失敗し、痛い思いをして「危ないやん」と気づくこと、五感で感じることが大切です。逆上がりもそうですが、人に教えてもらったり、人がやっているのを見てできるものではありません。自分でやってみて初めて覚えられる。共感することで、ものすごいエネルギーが出るのです。
藤本 教室で学べるものではないし、家ではテレビやゲームにいってしまいがちです。
大平 ゲームで人を倒したり傷つけたり。バーチャルな世界に慣れてしまうのは、とてもおそろしいことです。ですから、何とか子どもたちを外へ連れ出したい。夏休みもいい機会ではないでしょうか。
藤本 子育て支援ブームですが、実際に、たくさんの大人たちが子どもに関心を持ち、本気で向き合おうとしていますね。
大平 素晴らしいことです。私自身は、祖母の影響が大きかった。子どものころは、学校の勉強は好きではなかったけれど、本が大好きで、図書館で本を借りて来ては読んでいました。わからないことがあって祖母に聞くと、決まって一緒に調べてくれたんです。今の親ごさんたちはどうでしょう。
藤本 耳が痛いですね。つい忙しいを理由に、後回しにしがちです。
大平 それも、小さな努力の積み重ねだと思います。子どもの質問に「あとでね」と言ってしまったら、「聞いたらあかんのね」と、子どもは二度と尋ねることはないでしょう。思春期になって「子どもが何も話してくれない」と言っても、無理な話です。
藤本 周囲の大人たちが愛情を持って、行動で示していくしかないのでしょうね。
大平 私の場合も、養父との出会いで人生が変わりました。「今からでもやり直せる」と、私を信じて応援してくれました。「本気」で向き合ってくれた人です。
藤本 読者から大平さんに質問のリクエストをいただいています。「子どもがいじめにあったら、どうしたらいいでしょうか」。
大平 目の前にいる子どもの気持ちに寄り添ってあげてほしい。非行もそうです。子どもがいっぱい、いっぱいになるのは、「ひとりぼっち」を感じたときなんです。子どもは苦しさやつらさを上手に表現できません。ですから「この子は今、どういう気持ちなんやろう?」と真剣に考える。親でも先生でもいい。ひとりでも味方がいれば、次第に心のゆとりができてきます。各校に配置を進めているスクールカウンセラーも、そのひとりになり得るでしょう。
藤本 スクールカウンセラーについては、親たちの期待も大きいようですが。
大平 中には「自分がかつて苦しんだ経験を生かして、子どもたちを救ってあげたい。私にはできる」と構えている先生がいらっしゃいます。でも実は、子どもはそういう人を前に引いてしまうんです。ですから、体験的なものではなく、客観的に冷静な判断力を持ち、子どもが本音で話せるような空気をつくることが大切でしょう。
藤本 市長自ら、大平さんを抜てきされたそうですね。何てくどかれたんですか(笑)。
大平 「子どもたちの気持ちがわかるだろうから、大阪の教育をやってほしい」と。
藤本 迷いはありませんでしたか。
大平 今の私があるのは、大阪の人々のおかげ。ですから何とかお返ししたい。弁護士も子どもや親と接しますが、受け入れられる数は限られます。もっとたくさんの人に伝えたいという思いがありましたから。
藤本 助役というお仕事は適任ですね。
大平 私の役目は、現場の人がやりやすい環境をどうつくるか、だと思っています。放課後事業も習熟度別授業もサポートしていきたいし、現場のいい面をもっと表面に出していきたいと思います。
藤本 熱心な先生もいらっしゃいますね。
大平 皆さん一様に「教えるんじゃなく、子どもから学ぶ。子どもと一緒に成長するのが教師だ」とおっしゃいます。マスコミや世間はどうしてもマイナスのほうをいいますが、がんばっている先生にスポットを当てて評価してあげることも大事。それが連鎖して、いい空気に変わればと思います。
藤本 最後に、大阪のお父さんやお母さんへメッセージをお願いします。
大平 いい子を要求するのはやめましょう。子どもにはもともと夢がある。でもいつか、親の価値観の中であきらめてしまう。本当は、誰にでも実現の可能性はあるんです。気づいてほしいのは、子どもと自分との関係です。親だからといって価値観を押しつける権利はありません。まずは、親子は別人格
であることを再認識すること。そして、がんばっている子どもを認め、夢を持って人と出会っていけるような環境をつくることを応援する。学校教育も「ここまでしかできない」とか言っている場合ではない。家庭と学校と地域の連携こそが大切です。
藤本 ビーボラビータも、一役買えたらと思います。ぜひ応援してください。
大平 こちらこそお願いします。
藤本 今日は、大変意欲的なお話をいただき、本当にありがとうございました。