スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

子どもの心に寄り添って 大阪市助役 大平光代さん

中学2年のときにいじめを受けたことをきっかけに非行に走った大平光代さんは、その後、養父との出会いでやり直しを決意。29歳で司法試験に合格して弁護士の道へと進んだ――。ベストセラー『だから、あなたも生きぬいて』につづった波瀾の半生に、38歳で大阪市助役に就任という新たなページが加わった。先日は教育委員会担当として、自ら「熱意ある教員を」と教員募集を呼びかけ、注目を集めた。子どもをめぐるさまざまな事件が相次ぎ、真の教育が論議される今、助役として、人間としての大平光代さんに迫る。

 

大阪市助役 大平光代さん
おおひら みつよ  1965年生まれ。中学2年のときにいじめを受けたことをきっかけに非行に走り、壮絶な青年期を送る。やがて、父の友人でもあった養父・大平浩三郎さんとの出会いで立ち直り、猛勉強の末に宅建、司法書士と合格。29歳で最難関の司法試験に一発合格を果たす。その後、非行少年の更正に努める弁護士を本業とする傍ら講演や執筆活動に奔走。2003年12月には、關淳一市長の抜てきを受け、4年の任期で助役に専念中。

人に対する愛情を持った先生

藤本 今朝の新聞、ご覧になりましたか?大平光代さんとの対談写真 その1

大平 TAKURO(音楽グループGLAY)さんのご結婚の記事ですね。もう少し早く(5月28日付朝日新聞の対談でTAKUROさんと対談をされたばかり)出会っていれば、もしかしたらあそこに私が…(笑)。

藤本 対談では「昔からファンだった」とおしゃっていましたね。

大平 10年位前ですね。司法試験の勉強をしていた当時の友人が「すごくいいよ」と教えてくれて。息抜きに…と聴いて以来、すっかりファンになり、今でもずっと…。

藤本 それでは、本当に夢の実現ですね。

大平 ええ。この際、職権をフルに生かして…(笑)。助役になって半年になりますが、中でもとくに楽しいお仕事でした。

藤本 それはうらやましい。私も大平さんの『だから、あなたも生きぬいて』を拝見して以来、ずっとお会いしたかったので、今日はうれしくて。できれば助役である前に、ひとりの人間としての大平さんに、ざっくばらんにお話いただければと思います。

大平 はい、何なりと聞いてください。

藤本 早速ですが、今夏の大阪市の教員採用。自ら「情熱のある若い先生を」と立ち上がったそうですが、それはなぜですか。

大平 現在、大阪市には問題とされる教員が160名。教員の高齢化が進み、世代間ギャップもいわれています。でもやはり、子どもたちにとっては、生活の大半を過ごす学校という場所で、良き教員に出会うことが、将来につながるのだと思います。

藤本 いい先生とは?

大平 人に対する愛情を持った先生ですね。

藤本 先日『ビーボラビータ』で「先生」特集をしましたが、そこで見えてきたのは、忙しい、大変、子どもや親の気持ちがわからない…といった先生たちの声でした。「先生とは?」という質問に対しては、「人間です」という回答がダントツの1位でした。

大平 先生も「人間」ですから、しんどいときがあってもいいじゃないって、思うんです。完璧ばかりを求め過ぎるから、そこに無理もある。いいところもわるいところも含めて、人間性だと思いますね。

藤本 今回は、自ら面接もなさるとか。でも短時間で、その資質や人間性までを見極めるのは、大変ではないですか。

大平 たとえば流暢に話す方もいると思いますが、それは訓練すれば誰でもできること。でもその方が発するオーラというか、何か感じるものがあると思うんですよ。

藤本 新人教員は皆、夢を持って学校へ。でもいつの間にか、現場の事情の中で夢を失っていく…。情熱のある先生が、疲れたりあきらめたりしている先生たちとぶつかって、負けてしまうことはないでしょうか。

大平 疲れている先生にはフォローが必要ですね。それには、研修と話しやすい環境づくりが大切です。先生だって苦しみもあれば、学級運営の悩みもあります。そこに若いエネルギーが入ることで、いい影響が出ればと思うんです。

藤本 どんな研修を?

大平 職業体験なんかもやっています。地域のハンバーガーショップで働いたり…。

藤本 先生がハンバーガー屋さんで?

大平 接客に戸惑っているところに生徒が買いに来たりして…(笑)。効果も出ているようですよ。それともうひとつは、新任だけではなく、教育に関心のある多種多様な職業の人に入ってもらいたいですね。

藤本 いいですね。さまざまな職業の方から学ぶことは大きいでしょう。子どもに、生き方を伝えられる大人なんて、最高です。

大平 地域には、そういう方々もたくさんいらっしゃいます。

藤本 先日行われた横浜市のある調査ですが、「先生に望むものは?」という問いに対し、「非行やいじめなどの適切な対応」と答えた市民が70%、続いて66%の市民が「社会的な常識」と答えたそうですよ。

大平 とても深刻な問題ですね。

間違う前に気づいてほしい

藤本 非行といえば、劇画本『あなたなら、どうする』も読ませていただきました。子どもたちの日常が大平光代さんとの対談写真 その2、いかに多くの危険にさらされているかと、ドキッとしました。

大平 あれは「非行防止」のための本です。こういうことをしたら、こんなことになってしまうんだよ、と教えたかったのです。

藤本 マンガにしたのは、子どもたちにダイレクトに伝えたいということですか。

大平 少しでも早く気づいてほしいのです。私は弁護士ですから、付き添い人として家庭裁判所に入り、初めて少年(少女)と出会うわけです。つまり、事を起こしたあとです。少年院で教育を受けて立ち直る子どももいますが、中には再犯を繰り返す子もいます。発覚したら謝ればいいと、軽い気持ちでまたやってしまう。ひったくりでも必ず被害者がいて、時には命を落とすことさえあります。そこでケアしないと、取り返しのつかないことになるんです。

藤本 犯罪もエスカレートしていますね。

大平 今回の長崎の事件(※)もそうですが、子どもの心を理解していくのは大変です。

※長崎の事件/6月1日に長崎県佐世保市で起きた小学生女児が同級生をカッターナイフで殺害するという痛ましい事件。その要因として、インターネット上の会話のトラブルが考えられている。

藤本 情報社会の影響も大きいのでしょう。

大平 絶対にありますね。たとえば講演会でも、会場では声のトーンや表情を受けてくださるからきちんと伝わりますが、あとで講演録を見ると、全然雰囲気の違うものになっていることがあって驚きます。最初から活字になると知って書く原稿ともまた違い、話した言葉がそのまま活字になるというのは、本当におそろしい世界です。

藤本 メールやチャット(※)もそうですね。

※チャット/コンピュータネットワークを通じて、リアルタイムに文字ベースでの会話ができるシステム。1対1や同時に多人数での会話ができるサービスがある。

大平 もろに感情のぶつかり合い。きつい言葉だけが一人歩きをしています。私も時々、2ちゃんねる(※)を見ていますが、ひどい言葉が並んでいます。ITに関する教育や訓練を受けていない子どもが見たら、どうなるか…。容易に想像はつきますよね。

※2ちゃんねる/インターネット上で自由に情報や意見を交換する「掲示板」のひとつ。「2ちゃんねる」は日本最大級の掲示板といわれ、情報のテーマ、利用者の年齢層共に幅が広く、社会的に及ぼす影響も大きいため注目されている。

藤本 ITの必要性がうたわれ、学校教育にもどんどん取り入れられています。家庭でも、パソコンは当たり前になりました。

大平 たとえばカードも同じですが、毎日のようにコマーシャルが流れ、いとも簡単に借金ができる。それが雪だるま式に増えたら破たんすることも知らずに…。ですから、パソコンを与える前に、どれだけの危険があるかをしっかりと教育する必要があるでしょう。ああいう事件があって、今すぐにでも教育を始めてほしいと思います。

がんばればできるという自信

藤本 さて、大阪市の教育についてお聞きしたいのですが。助役としては「習熟度別少人数授業」を推進されているそうですね。

大平 大阪市では以前からやっていたことですが、今年度から小、中学校で随時実施していきます。学校には、それぞれカラーや特色がありますから、一斉にはいきません。校長の判断に任せるのが一番でしょう。

藤本 お母さんたちに聞くと、「うちは出来がわるいから、きっとBクラスや」などと、かなりウワサが先行しているようですが。

大平 クラス分けで終わりと思われたら、全くの誤解です。校長には、そうした誤解を解くところからやってほしいですね。

藤本 その狙いは何ですか。

大平 一人ひとりの能力に応じたきめ細かな対応をしていきます。途中でつまずきかけた子どもを何とか押し上げて、物事に興味を持たせる。できる喜び=達成感を味わうことで、学ぶことの楽しさを伝えます。今は、勉強ができる子は、たとえ人格に問題があったとしても、それだけで「素晴らしい」と評価される。一方で、勉強ができない子は、それだけで「自分はダメなんだ」と自己否定してしまいます。学校の勉強なんて、人間のごくごく一部なのに、です。

藤本 親の価値観の問題ですね。

大平 昔は、木登りや缶蹴りが上手な子などいろいろいましたし、中には遅咲きの子もいます。学校の勉強だけをものさしに、子どもが自信を失っていくとしたら、あまりの損失です。やはり「がんばればできる」という自信が、人間をつくっていくのです。ハードルをひとつ越える、クリアすることで、次が見えてきます。それは、私自身の体験からもいえることですが。

藤本 弁護士になられた過程ですね。

大平 最初から司法試験に臨んでいたら、きっと、いまだに受かっていないでしょう。宅建(※)、司法書士(※)と一つひとつクリアしていって、先を目指せたんだと思います。

※宅建と司法書士/不動産取引の専門家を「宅地建物取引主任者」といい、その資格取得のための国家試験。司法書士とは、国家資格を有する法律実務家をいい、主に不動産登記の手続きや裁判所に提出する書類の作成など、登記申請の代理を行う。

藤本 ところで「ゆとり教育」に「学力重視」と、親たちも混乱しているようですが。

大平 確かに方針があちこちに揺れています。しかし、親も学校も、文部科学省の発表に左右されるのではなく、自分たちの問題として考えてほしいですね。

いい子を要求するのはやめて

藤本 「ゆとりの学習」を目指した完全学校週5日制も、実施されて随分経ちますが。大平光代さんとの対談写真 その3

大平 いい大学、いい会社に入ることが目的であるならば、「ゆとり」とはいえません。反対に塾だ何だと、子どもたちを苦しめています。親たちも、もうそんな時代じゃないと頭ではわかっているのですが、なぜか自分の子の場合は例外なんですね。

藤本 週5日制で、親も、休日をどう過ごそうかと悩んでいます。

大平 今は、家庭での教育力が極端に落ちています。親の勝手で子どもに「やれ、やれ」ではなく、一緒に何かを体験することが必要です。

藤本 「生きる力」をつけるには?

大平 自然体験や本物体験を積むことでしょう。生き物もそうですし、ミュージカルやアート、文楽などの伝統文化もそうですね。幸い大阪には、そういうものにふれられる環境がたくさんあります。

藤本 感性というか、子どもが本来持っている力を引き出すということでしょうか。

大平 都会の子どもたちに農業や山での体験をさせることで、学べるものは大きいでしょう。木登りに失敗し、痛い思いをして「危ないやん」と気づくこと、五感で感じることが大切です。逆上がりもそうですが、人に教えてもらったり、人がやっているのを見てできるものではありません。自分でやってみて初めて覚えられる。共感することで、ものすごいエネルギーが出るのです。

藤本 教室で学べるものではないし、家ではテレビやゲームにいってしまいがちです。

大平 ゲームで人を倒したり傷つけたり。バーチャルな世界に慣れてしまうのは、とてもおそろしいことです。ですから、何とか子どもたちを外へ連れ出したい。夏休みもいい機会ではないでしょうか。

藤本 子育て支援ブームですが、実際に、たくさんの大人たちが子どもに関心を持ち、本気で向き合おうとしていますね。

大平 素晴らしいことです。私自身は、祖母の影響が大きかった。子どものころは、学校の勉強は好きではなかったけれど、本が大好きで、図書館で本を借りて来ては読んでいました。わからないことがあって祖母に聞くと、決まって一緒に調べてくれたんです。今の親ごさんたちはどうでしょう。

藤本 耳が痛いですね。つい忙しいを理由に、後回しにしがちです。

大平 それも、小さな努力の積み重ねだと思います。子どもの質問に「あとでね」と言ってしまったら、「聞いたらあかんのね」と、子どもは二度と尋ねることはないでしょう。思春期になって「子どもが何も話してくれない」と言っても、無理な話です。

藤本 周囲の大人たちが愛情を持って、行動で示していくしかないのでしょうね。

大平 私の場合も、養父との出会いで人生が変わりました。「今からでもやり直せる」と、私を信じて応援してくれました。「本気」で向き合ってくれた人です。

藤本 読者から大平さんに質問のリクエストをいただいています。「子どもがいじめにあったら、どうしたらいいでしょうか」。

大平 目の前にいる子どもの気持ちに寄り添ってあげてほしい。非行もそうです。子どもがいっぱい、いっぱいになるのは、「ひとりぼっち」を感じたときなんです。子どもは苦しさやつらさを上手に表現できません。ですから「この子は今、どういう気持ちなんやろう?」と真剣に考える。親でも先生でもいい。ひとりでも味方がいれば、次第に心のゆとりができてきます。各校に配置を進めているスクールカウンセラーも、そのひとりになり得るでしょう。

藤本 スクールカウンセラーについては、親たちの期待も大きいようですが。

大平 中には「自分がかつて苦しんだ経験を生かして、子どもたちを救ってあげたい。私にはできる」と構えている先生がいらっしゃいます。でも実は、子どもはそういう人を前に引いてしまうんです。ですから、体験的なものではなく、客観的に冷静な判断力を持ち、子どもが本音で話せるような空気をつくることが大切でしょう。

藤本 市長自ら、大平さんを抜てきされたそうですね。何てくどかれたんですか(笑)。

大平 「子どもたちの気持ちがわかるだろうから、大阪の教育をやってほしい」と。

藤本 迷いはありませんでしたか。

大平 今の私があるのは、大阪の人々のおかげ。ですから何とかお返ししたい。弁護士も子どもや親と接しますが、受け入れられる数は限られます。もっとたくさんの人に伝えたいという思いがありましたから。

藤本 助役というお仕事は適任ですね。

大平 私の役目は、現場の人がやりやすい環境をどうつくるか、だと思っています。放課後事業も習熟度別授業もサポートしていきたいし、現場のいい面をもっと表面に出していきたいと思います。

藤本 熱心な先生もいらっしゃいますね。

大平 皆さん一様に「教えるんじゃなく、子どもから学ぶ。子どもと一緒に成長するのが教師だ」とおっしゃいます。マスコミや世間はどうしてもマイナスのほうをいいますが、がんばっている先生にスポットを当てて評価してあげることも大事。それが連鎖して、いい空気に変わればと思います。

藤本 最後に、大阪のお父さんやお母さんへメッセージをお願いします。

大平 いい子を要求するのはやめましょう。子どもにはもともと夢がある。でもいつか、親の価値観の中であきらめてしまう。本当は、誰にでも実現の可能性はあるんです。気づいてほしいのは、子どもと自分との関係です。親だからといって価値観を押しつける権利はありません。まずは、親子は別人格大平光代さんとの対談写真 その4であることを再認識すること。そして、がんばっている子どもを認め、夢を持って人と出会っていけるような環境をつくることを応援する。学校教育も「ここまでしかできない」とか言っている場合ではない。家庭と学校と地域の連携こそが大切です。

藤本 ビーボラビータも、一役買えたらと思います。ぜひ応援してください。

大平 こちらこそお願いします。

藤本 今日は、大変意欲的なお話をいただき、本当にありがとうございました。

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