スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

児童虐待問題を解決するために 前 大阪市中央児童相談所長 津崎哲郎さん

連日マスコミをにぎわし、大きな社会問題となっている児童虐待問題。35年もの年月、その受け皿である大阪市中央児童相談所(※)において、調査やカウンセリング、一時保護や親権喪失の申し立てのほか、虐待防止などに尽力。子どもたちを救うため、国や行政機関へも現場からの発信を続けた「虐待」のスペシャリスト・津崎哲郎氏。所長職を離れた今、なお熱い、その思いを伺った。

※児童相談所/児童福祉法15条により児童福祉の専門機関として都道府県、指定都市に設置されている。全国でおよそ182か所。18歳未満の子どもについての悩み相談。秘密厳守で相談無料。

 

前 大阪市中央児童相談所長 津崎哲郎さん
つざき てつろう  1944年大阪市生まれ。1968年大阪市立大学文学部(社会学専攻)卒業後、1969年から大阪市中央児童相談所に勤務し、ケースワークに従事。1983年に同所・一時保護所長に就任以降、措置係長、副所長を経て、2002年に同所・所長に就任。2004年4月より花園大学社会福祉学部教授として教べんをとる傍ら、長年の児童福祉職の経験と実績を生かし、講演やセミナー活動、執筆活動など多忙な日々を送る。主な著書に『子どもになれない子どもたち』(筑摩書房)、『子どもの虐待〜その実態と援助〜』(朱鷺書房)などがある。

どこも手いっぱいの児童相談所

藤本 今日は、大阪市中央児童相談所(以下、児相という)時代のご経験から、いろいろ伺わせてくだ大平光代さんとの対談写真 その1さい。早速ですが、児相とはどういう機関なのですか。

津崎 児相ではあらゆる福祉問題を扱いますが、現状では、虐待(※)などの重いケースは児相でしか対応できないので、もっぱらそれに追われています。軽いものについては、府では市町村、市では区役所で受けていただく。その中で、難しいケースについては児相に回されてくるしくみです。

※児童虐待/殴る、蹴るなどの身体的虐待のほかに、食事を与えない、風呂に入れないなどのネグレクト(保護の怠慢・拒否)、言葉の暴力による心理的虐待、性的虐待の4つが代表的。

藤本 窓口はどちらになるのですか。

津崎 市町村の児童相談の窓口、大阪市では区の総合相談ですね。相談にあたるのは、市町村では家庭児童相談の職員。大阪市では平成14年に虐待の地域ネットづくりということで、虐待対応の担当主査を配置しました。

藤本 そこで解決できることもたくさんあります。でも深刻な虐待など、他の機関で対応しきれないケースはぜんぶ児相にきますから、正直、受け止めきれるしくみではありませんね。

津崎 10年前には35件だった相談件数が、2002年には518件だったとか? 大変な現状のようですね。

藤本 大阪市では唯一の児相ですが、大変なのは全国どこも同じです。件数の急増もさることながら、夜間や休日にも通報が入るので24時間体制が敷かれるようになりました。それに、難しい問題が多いので1人で対応せずに、必ず2〜3人のチームを組む。つまり2〜3倍の職員が必要です。ところが、現実には増員できない。そのへんに厳しさがありますね。

津崎 相談員さんは何名くらい?

藤本 窓口や調査・指導をするのは、児童福祉司という資格を有する、いわゆるソーシャルケースワーカーで、現在40人ほどいます。そのほか心理判定員などの心理職員、精神科医などの医師、または緊急に一時保護が必要だといえば、指導員や保育士も必要になってきます。そういう人たちがチームを組みながら、それぞれの子どもの問題の背景を的確に押さえて処遇の判断などを下していくのです。

津崎 警察とのリンクもそうですね。

藤本 大阪府では「虐待防止法」ができた平成12年に、虐待に対応する「チャイルド・レスキューチーム」が府警本部の中につくられました。そこに通報がくる場合もありますが、そこで福祉的対応が必要な場合があれば、警察も一市民と同じ立場で児相に通告をしてくる。児相はそれを受けて、調査に入ったり、保護活動を展開するという連携です。それからもうひとつは、虐待防止法によって児相が立ち入り調査をしたりするときに、保護者とのトラブルが起こる場合がある。そんなときに警察に応援を含めて一緒に行ってもらう、というようなこともあります。

津崎 虐待防止法によって、対応の仕方も随分変わってきたのですね。

藤本 これまで警察は、家庭内の問題に関しては刑事立件しなかったんですね。ところが虐待防止法の中に、「家庭内の問題であっても刑事的責任は免れない」という一文が入りましたから、程度の大きなケースについては、暴行罪とか傷害罪とかを適用して、保護者を逮捕するような動きもできてきました。

背景にある親の複合的な問題

藤本 ここまで虐待が増えてきた、その要因は何だと思われますか。

津崎 昔から虐待はありました。ただ日本の場合は民事不介入という考え方がありましたから、家庭内の問題には第三者が口をはさまなかった。でもこのように社会問題にもなり、顕在化してきたという要素がひとつにはあるでしょう。それともうひとつは都市化現象ですね。とくに家族の孤立化。これが虐待が増えてきた大きな理由でしょうね。

藤本 地域がなくなったといいますね。大平光代さんとの対談写真 その2

津崎 近所づきあいも今はなく、親が子育てに未熟であったときに、誰も関与できないんですよ。未熟な親がストレスを抱えたときには、ストレートに子どもにいってしまう。とくに、加害者である親自身が「しつけ」と思い込んでいる自覚に乏しい場合などは、手に負えません。

藤本 どんな背景があるのでしょう。

津崎 親の生育歴の問題であるとか、夫婦間の協調性の問題であるとか、あるいはそこに経済的な困難であるとか、外部との関係性の問題であるとか…。そうした複合的な問題が生じた中で、とくに子どもの態度が気に入らないとかいうときに、強い接し方になってしまう。

藤本 子どもが犠牲になってしまう…。

津崎 これはDV(※)や老人問題も同じ。家族の弱者に対して、家庭内のうっぷんやストレスが向かってしまうのです。

※DV問題/夫から妻への、もしくは恋人など親密な関係の男性 から女性への暴力。日本では1992年、民間のDV調査研究会が任意協力者への初の全国的調査を行い顕在化した。

藤本 母親になるための教育が、なされていないからでしょうか。

津崎 子育て体験がないままに親になる。マニュアル通りに育てなさいといっても無理です。そのためには、中高生が赤ちゃんや幼児と関わる機会を積極的につくっていこうと、保育園や乳児院と一緒にいろんな試みが始まっています。

藤本 順調な人生を送ってきた人が、意外に子育てに挫折することも多いとか。

津崎 そういうグレーゾーンの親もたくさんいるはずです。でもそれは、いつブラックになるとも知れませんから放っておけない。電話相談によくあるケースですが、そうしたアクションがあったときにしっかり対応することが大事です。

藤本 電話や来所という形で「相談」できる人はまだいいわけですね。

津崎 虐待に至る現状を、自身で悩んでいれば解決の糸口は必ず見つかります。学校や民間の相談機関でも、警察であってもいいんです。とにかく自分で出向こうという意志があればどこかにつながって何とかなる。でも、子育てがしんどくて悩んでいるのに、自分からは出向かないという人が極めて多い。それは、こうした受け身の相談という体制の中ではどうにも救えない。

藤本 そこを何とか解決していけたら。

津崎 出前型のサービスを、地域の中で展開していくしか方法はないですね。訪問機能を持つ相談機関、たとえば保健福祉センターの保健師さん、大阪市各区に配置している子ども家庭支援員という有償ボランティア、または主任児童委員(※)さん…、そういう人が、気になる家庭があったら積極的に訪問することが大事。今は、学校の先生もそうですね。こうした動きがあれば、未然に防いでいけるだろうといわれています。

※主任児童委員/民生委員は児童委員を兼ね、児童、妊産婦、母子・父子家庭等の相談に応じ、問題解決に努めています。平成6年に関係機関との調整を専門とした主任児童委員が配置され、児童虐待防止や子育て支援などの活動に取り組んでいます。

地域の中での連携の必要性

藤本 子育て支援ブームの中で、中高年の方々もいい人材ではないでしょうか。

津崎 地域には主任児童委員という子どもの問題専門の方もいますが、既存の民生委員組織の中では動きにくい現状もあるようです。連絡調整が難しくて単独では動けないというんですね。本来は、そういう方たちが独自の判断でもっと動いていいんですよと、アピールしていかないといけないんでしょうね。

藤本 私は長い間、子育てサークルなどを支援してきましたが、地域にある母親ネットワークこそ、当事者意識で関わっていけるのではないかと思うのですが。

津崎 城東区の児童委員さんは、子育てネットワークを支援しながら、お母さんたちとつながり、積極的に参加を呼びかけたりもしています。児童委員といっても、個人への働きかけはなかなか難しいですからね。大平光代さんとの対談写真 その3

藤本 具体的な取り組みがあって初めて声をかけられるのですね。

津崎 一方で児童委員さんは学校などへも働きかけていますが、学校側としては、個人の情報を流すなという動きもある。そこで今、国が考えているのは、「虐待防止法のネットワーク」を自治体の協議会という風に位置づける。そしてそこに守秘義務を課し、自由に情報を流せる、情報の共有ができるというしくみにして、地域がチームを組んで支援していくという形です。

藤本 少しの改善で、たくさんの子どもたちが救えるのかも知れませんね。

津崎 たとえば生活保護の相談を受けるケースワーカーは、お金の相談には乗るけれど子どもの問題にはほとんど介入しません。でも実際には、経済事情と子育ての問題は大きく絡んでいることが多い。ですから、ケースワーカーの訪問に児童委員が同行して、子どもの日常を尋ねる。一人ひとりができることを考える、工夫することが大事だと思います。

愛情を持った里親制度の推進

藤本 虐待に関するしくみづくりも、これからというところでしょうか。

津崎 国が虐待問題に関心を持った平成2年から10年目。大阪市では虐待コーディネーターを各区に配置し、各セクションとの連携体制をとって一緒に考えるようになりました。そして3年後の今、改正の検討です。事を形にしていくのは息の長い地道な作業です。ここへきてやっと、学校や医療機関も児相につなぐようになり、自分たちの役割を考え出した。つまり支援の裾野が広がったといえるでしょう。今後はさらに、市民がそういう意識を持っていくことが次のステップになるでしょう。

藤本 私たちには何ができるでしょうか。

津崎 市民の義務としては、第一に、虐待を発見したら相談所等に「通告」することです。それから、現在、家庭で暮らせない子どもたちが全国で3万5000人もいます。子どもは環境を選べない。けれども、環境次第でどうにでも変われるものです。

藤本 ご自身も里親として、お子さんを育てていらっしゃるそうですね。

津崎 たまたま間接的な知り合いの子どもでしたが、母親が亡くなって預かり先が点々とし、一時保護所で泣いてばかりいた女の子。3歳のときに引き取って、今は小学校3年生になりました。

藤本 津崎さんのお子さんは?

津崎 男2人、女1人の実子がいますが、里親体験は、3人の子育てとはまた違った養育経験となりました。「退行現象」と呼ばれる赤ちゃん返りやかんしゃく、それから嫉妬ややきもち…と、不安定な精神状態を平静に戻すまでにはいくつかの段階を経る。そうしてたどり着く「自らの境遇の理解と納得」は、安定した生活への必須条件のように思えます。

藤本 里親体験、そして児相という現場体験に基づくメッセージですね。

津崎 幼児期は個別の愛情とスキンシップが大切だと、つくづく思いますね。そしてまた、乳幼児期の土台がどれだけできているかが、人格のベースになると思います。そうなると、やはり集団生活ではカバーできない。つまり、家庭の必要性です。

藤本 5年ほど前に弊社が立ち上げた「家庭保育園」という事業では、横浜を中心に首都圏で150人もの母親が園長として開業、「もうひとつの家庭」として地域の子どもたちの面倒を見たのです。ここでは、愛情を持って接する「家庭」の大切さを、私も言い続けてきました。

津崎 素晴らしいことですね。行政にも家庭保育のしくみがありますが、居場所さえあればいいのではありません。やはり信頼できる大人の愛情が一番。子どもは大人の被害者です。非行や心身症、つまずきなどを責め立て、矯正しようとしても成功はしません。子どもの内面にある葛藤やさびしさを受け止め、寄り添おうとする大人の愛情がない限り、心を開くことはできないのです。子どもの置かれた苛酷な環境を理解し、親代わりとなって愛情を持って見つめていくことが大切でしょう。

藤本 里親制度とはどんなものですか。大平光代さんとの対談写真 その4

津崎 週末里親や夏休みなどの短期里親、自立支援里親など、多様なケースがあります。より細かくケアしていくために、今ある施設を大規模から小規模へと移行させるのと並行して、力点を置いて進めていくべきでしょう。お母さんたちにお願いしたいのは、自分の家庭だけではなく、もう少し社会に目を向けてほしいということですね。

藤本 社会や他人に無関心ではなく、皆が自分には何ができるだろうという意識が大切なのでしょう。そして我々も、メディアとしての役割を考えていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

●子どもの虐待などに関する相談は
大阪市中央児童相談所へ 
〒547-0026 
大阪市平野区喜連西6-2-55
TEL06-6797-6520 
FAX06-6797-3494
または各区の
保健福祉センター地域保健福祉課へ
●子どものあらゆる問題に関する電話による相談は、大阪市教育センターへ
電話教育相談
TEL06-6576-2100・2108
子ども専用電話教育相談
TEL06-6576-0010

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