藤本 館内を回らせていただきましたが、陶磁器の美しさに驚きました。色といい形といい、何ともい
えない繊細な美しさですね。
伊藤 初めてご覧になった方は、一様に感激されます。ひとつにはライティングのしかけのためです。ケースの背景に影をつくって、やきものが自然に浮かび上がるようにしています。フィリップス社製のハロゲンランプを使って、光を調整しているんです。きれいに見せるにはどうしたらいいかと、考えに考えてつくっているつもりです。
藤本 一つひとつに存在感があって、何かを主張しているようにも見えましたが。
伊藤 どれひとつとして同じものはないわけで、その個性をどう引き出すかですね。
藤本 韓国や日本の陶磁の中には、不思議なカーブを描いたものもありましたね。
伊藤 「いびつさ」もひとつの個性です。また、展示すると裏側が見えない、立体感や裏側の模様を見せたいものもあり、回転台に乗せたものもあります。やきものの魅力をできるだけ伝えたいですね。
藤本 自然なやわらかさというか、しなやかさのようなものがありました。
伊藤 とくに自然光だけをとり入れたケースは、青磁の美しさを際立たせます。こういう装置は外国にはない。日本では四季折々の自然光で楽しむことができます。
藤本 「気品」のようなものを感じましたが。
伊藤 すぐれた芸術品にはすべて「品」がありますね。
藤本 芸術にあまり詳しくない私でも、それを感じることができるのはなぜでしょう。
伊藤 照明に限らず、見る人の立場に立って考えて、並べ方、角度ひとつにもとことんこだわって展示しています。「ディスプレイは1ミリ単位で」というのがモットーです。物理的な意味だけでなく、それだけの緊張感を持ってやっています。館内をゆっくり歩けば、音楽的なリズムを感じていただけるはずです。ディスプレイは音楽のようなもので、一分一厘の隙があってはならないと、徹底しています。
藤本 心が洗われる、心を落ち着かせる空間。贅沢な空間、大切な時間ですよね。
伊藤 人々にほっとできるひとときを提供する。それが美術館のひとつの役割でしょう。非日常を求めて旅をしようと思ったら、お金も時間もかかる。それが、都会の中で「癒し」を味わえるなんて、こんなに安上がりな贅沢はない。世界中を旅した方が「やきものに関する限り、ここは世界一のオアシスだ」とおっしゃったことがあります。
藤本 陶磁にここまでこだわり、集めて見せる所はないそうですね。
伊藤 中国、韓国陶磁に関しては、ここは「世界の宝庫」といわれています。ひとつの作品を何十分も見つめ続ける人もいます。
藤本 外国のお客様も多いのでしょうね。
伊藤 わざわざ関空に降りて立ち寄り、それから東京へ行く人もいる。欧米や中国、韓国から、国内でも遠方から足を運んでくださる方もたくさんいますが、残念なことに市民の関心が今ひとつです。市民として、もっと誇りに思っていただいていい施設だと自負しているんですけれど…。