藤本 去年は井川投手が20勝。調子がわるいといわれながら勝ち進んでいきましたが、受けていてどうでしたか。
矢野 決していいとはいえませんでしたね。20勝してわるいといわれるのは井川もかわいそうですが、ぼくはあいつの一番いい球を知っていますから、物足りなさはありました。圧倒的な押さえ方をしてほしいですからね。あいつがすごいのは、精神的な部分。ピンチになればなるほどいいボールがくるし、あとは「意識」です。自分はこうやろう、ああやろうというのを持って投げている。ぼくがピッチャーに望むのはそこです。自分がどう投げたいか…。気持ちのないボールは投げてほしくないですね。
藤本 自分がどうしたいか…。だからでしょうか。画面でも、井川さん、矢野さんバッテリーの気迫は違いますよね。
矢野 だから、あいつはすごいんです。
藤本 相手の心を感じるなんて、簡単にできることではありませんよね。もともと、矢野さんが持っている才能なのでしょうか。
矢野 ここ何年かですね。野村監督に教えてもらったことで、一番大きかったのが「感じろ!」ということです。相手がどう思っているのか。たとえばバッターならスタンスや握り、肩に力が入ってるとか。ランナーが走ろうとしているかも、やはり出ますからね。でも感じようとしなければ、何もわからない。もちろん、すべてが見えるわけではありませんが、見える瞬間があるんです。野村監督にはそういう「見方」というか、「教え」を学びましたね。すごい財産です。
藤本 矢野さんの場合、バッティングと守備の切り替えも大変ではないですか。
矢野 気持ち的には完全に切り替えたいのですが、簡単ではないですよ。最近は、だんだん区別できるようになってきましたけどね。
藤本 打ったあとなど、矢野さんが喜ぶシーンが相当増えてきたように感じるのですが、これまでの、冷静沈着なキャッチャー・矢野にはなかったことですね。
矢野 やっぱりぼくも、サヨナラ勝ちのときに一番に来てくれた奴の顔とかは覚えていますし、勝ったときは、めちゃめちゃうれしいですしね。
藤本 キャッチャーは、感情を表に出したらいけないんですか。
矢野 2、3年前までかな。そう思っていた時期もありますが、今はもう、素直な自分を出して思いっきり喜んでもいいんじゃないか。チームのみんなも同じだろうって。
藤本 野球をやっていて一番うれしいときって、どんなときですか。
矢野 ホームランもそうですが、ぼくの場合はやはり、ゲームセットの瞬間ですね。苦しい戦いで、やっと勝てたときなんかは、最高です。
藤本 スポーツは勝ち負けがはっきりしていますね。
矢野 ぼくらは負けても次がある。「明日はがんばろうな!」と言えるのは幸せです。
藤本 ベストナインとゴールデン・グラブ賞をとられましたね。おめでとうございます。どちらがとくにうれしいですか。
矢野 断然ゴールデン・グラブですよ。自分は守りでチームに貢献するんだと信じていましたから、最高にうれしかったですね。ぼくが使っているのと同じZETTのミットに、金を加工したもの。ゴールデン・グラブ賞というネーム入りです。いつかは絶対に欲しいと思っていた賞です。
藤本 いつも思いますが、テレビでもバッターやピッチャーはクローズアップされるけど、キャッチャーってあんまり出ない、地味な商売ですよね。
矢野 ハハハ。そこがいいんですよ。目立たない。けど全部をわかっているのはぼくなんだ、という自負はありますね。
藤本 ファンの皆さんは、チームの要である矢野さんが1年でも長く活躍されることを願いつつ、多少心配もしていると思うのですが。あと10年はやってくれるかな?なんて…。
矢野 それはないと思いますが、いつまでというより、とにかく今、がんばることしか考えていません。ただ下の娘がまだ1歳なので、何とかこの子が、パパが野球やっていたよというのをしっかり覚えてくれるまではやりたいです。それが父親としてできることですね。
藤本 これからの夢、目標は?
矢野 目標は140試合フル出場。昨年はできなかったので、今年こそはと思います。そのときは、打率も含めて数字は自ずとついてきているでしょう。
藤本 それには体力と気力。調整も大切ですね。チームの中でも、やはりポジション争いのようなことはあるんですか。
矢野 もちろんです。やはりスポーツの世界は結果を出してなんぼですからね。まあ、キャッチャーの場合は経験が一番ですから。そりゃあ、体力では若い奴には勝てませんけど、経験や判断力なら負けません。年々全体が見えるようになってきたというか、そこらへんは自信がありますね。
藤本 ゲームや人を読む力ですね。
矢野 昨年もずっとやらせていただいて、その経験が今年に生きる。また、そうしなければいけないと思いますしね。
藤本 テレビで気になったのですが、矢野さんがゲームの初めにグラウンドを触るのはどうしてですか。何かジンクスでも?
矢野 グラウンドへの挨拶。「今日もよろしくお願いします」という気持ちですね。
藤本 多くの野球少年たちへ一言。
矢野 ぼくもプロにはなれたけど、埋もれていた時代がありました。それは、やっぱり最後まであきらめなかったこと。たとえプロになれなくても、そこでがんばったことは必ず次につながるので、本当に自分がやりたいことを、早く見つけてほしい。そして、とにかくやり遂げてほしいですね。
藤本 多くの阪神ファンにメッセージを。
矢野 ぼくらが野球をしていることや勝ったことで、ファンの皆さんが泣いてくれたり、ありがとうって言ってくれたりする…。本当にありがたいというかもったいないというか…。優勝パレードでも、小さい子からおばあちゃんまで雨の中、来てくれて…。パレードがあんなにいいもんだとは、やってみて初めて知りました。今年こそは、応援してくださっている皆さんのためにも、絶対に日本一になりたいですね。
藤本 たくさんのファンのためにも、そしてご家族のためにも、ぜひがんばってください。今日は、ありがとうございました。