スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

自分を高めるために山に行く 登山家・医学博士 今井通子さん

医師であり、女性初のヨーロッパ三大北壁完登者として「ミチコ」の名を不動のものとした今井通子さん。以来、チョモランマ、キリマンジャロなど世界の高峰に次々と挑戦し、制覇する姿は多くの人々を感動させた。現在も健康を目的にしたトレッキングツアーなどを広める一方、官公庁審議委員ほか団体委員など数々の要職を務め、また講演や執筆活動など、八面六臂の活躍を見せる。世界を極めた今井さんに聞く、「なぜ山に登るのですか?」

 

登山家・医学博士 今井通子さん
いまい みちこ  1942年東京都出身。66年東京女子医科大学卒業。在学中に山岳部に入部し登山を始める。67年女性パーティーとして欧州アルプス・マッターホルン北壁登攀に初成功。69年アイガー北壁、71年グランドジョラス北壁と、女性初の欧州三大北壁完登者となる。79年ネパールヒマラヤ・ダウラギリの三山登頂。85年エベレスト中国側チョモランマ峰北壁に挑み、冬季世界最高到達点を記録。現在も東京女子医大で診察する傍ら、東京農業大学客員教授として環境問題を研究。さらに国内外のトレッキングツアー、講演などをこなす。著書は『あなたと歩く世界の名峰』(小学館)など多数。

父から学んだ「自然とのつきあい方

藤本 ありきたりの質問ですが、「山」へのきっかけは何だったのですか。今井通子さんとの対談写真 その1

今井 もともと父も母も東京の人なので、夏休みを過ごす「田舎」はありませんでした。でも代わりに、小さいころから休みの日は「山」で過ごすことが多かった。週末は家族で近隣の山へ行き、夏は山の家で暮らし、冬はスキーが当たり前でしたね。

藤本 都会に暮らしながら、そのような環境をつくるのは、簡単ではないですよね。

今井 両親共に医者でしたので日ごろは忙しく働いていましたが、その分休みは私たち4人の子どものために、自然の中でゆったり過ごそうという思いが強かったのでしょう。

藤本 素晴らしい家庭環境ですね。

今井 両親が伝えてくれたのは、「自然」の価値です。言葉ではなくカラダで教えてくれた。小学校2年のときです。山頂へ私を伴った父ですが、スキーを指導するでもなく、どんどん滑降して行く。私は置いて行かれまいと、必死で後を追いました。転んでも助けないのは「無理をせず、自分のペースで自然とのつきあい方を学べ」ということです。

藤本 深いメッセージですね。

今井 自然は、人間の「動物である部分」を復活させる力があります。山の素晴らしさは一口では語れません。花も木も水も美しく…。汗をかく楽しみも、自分で目標を決めて達成する喜びもありますが、五感を通して「生きていること」を実感する。これが一番です。

藤本 「山では裸になる」という言葉を聞いたことがありますが。

今井 山では肩書きも何もない。ただひとりの人間であるだけです。山ではもちろん山の知識は必要ですが、本能的なものが強く求められます。勘に頼る部分は大きいですね。単に、経験を増やせばいいというのでもありません。

藤本 「勘」は、学べるものではありませんよね。

今井 勘ではなく、「感性」は伸ばせます。大切なのは、子どものころに「どれだけ飛んだり跳ねたりしたか」でしょう。医学的には、6歳までに身につけた「瞬発力」が勝負といわれています。あとは「筋力」を一番伸ばせる20代のときに、どれだけ動いてどう伸ばすかです。

藤本 本格的に「山」を始められたのは、大学生のときだったのですね。

今井 ええ。ほんとは絵描きになりたかったんです。高校生のある日、母が私を近所の絵描きさんの所に連れて行ってくれました。今思えば、母の戦略だったのかも知れませんが、北側の部屋は寒々としていて、割れた窓ガラスには切り抜いた紙が貼ってありました。決して豊かには見えなかったのです。光に左右されない北向きの部屋が絵を描くには最適だなんて、当時は知りませんでしたからね。

藤本 絵描きさんになるのは…?

今井 ひとまずやめました(笑)。うちは、両親、親せき共に医者の家系。母が東京女子医大でしたから、そこに行くのが当たり前。「医者になってから絵を描けばいいじゃない」という母の一言で決まりました。

山を通して家族の絆が深まった

藤本 女子医大に入学されて、いよいよ登山家としての道が始まるのですね。今井通子さんとの対談写真 その2

今井 初めはそんなに気負ったものはありませんでした。でも山岳部に入り、山に行きだしたらもう止まらない。私って、思い込んだら一途でしょ。どんどんのめり込んでいきました。

藤本 ご両親の反対はありませんでしたか。

今井 母はそうでもなかったのですが、父は思いきり反対しましたね。「ぼくは山登りを教えた覚えはない」と。「山に行く」と言うと、父は口をきいてくれなくなった。それでも私は行きましたから、次第に、あきらめて帰りを待つだけになりました。

藤本 私も母親ですから、よくわかります。

今井 両親は他界しましたが、「山」を通して私たちは語り、けんかをし、家族の絆を深めたともいえるでしょう。

藤本 アルプス・マッターホルン、アイガー、グランドジョラスという、欧州三大北壁を制覇した快挙も、お父様としては複雑な心境でしょうか。

今井 「山は危険」といわれますが、そんなことはありません。自然との闘いだから「運」はありますが、経験や勘、知識や準備があれば危険は回避できる。山で最も必要とされるのは「感性」と「行動力」です。

藤本 以前、ドキュメンタリーをテレビで拝見しましたが、果敢に次を目指すチャレンジ精神、行動力には驚きました。その中で、印象的なシーンがあったのですが、危険な岩場で安全な確保ができたときに、ご自身で「私ってすごい!と、ほれぼれしちゃうのよね」とおっしゃっていましたね。

今井 山ではほめてくれる人がいないでしょ。だから心の中で自分をほめる。緊張した一瞬のあとにです。チョモランマの壁でホールドに手を伸ばそうとしたそのとき、風がヒューッと吹き、一瞬身体が浮いてヒヤッとする。でも次の瞬間しっかりとホールドできた! 「さっすがぁ! 私ってなかなかやるじゃん」って。

藤本 すごくカッコイイですね。自分にほれてしまうなんて。そういう自分になりたいと思いますね。

今井 あんまりね、自分のことを評価されるのって趣味じゃないわね。ほめられたり、比べられたり…。日本人は常に他人の目や評価を気にするでしょ。でも、幸せって「自分がどうありたいか」ですからね。

藤本 同感です。「何のために自分は?」と、考えることって大切ですよね。

今井 「何のために登るのか」とよく聞かれますが、私にとっては、山は自分と向き合える場所。自分を試す場所でもあります。自分を知り、高めたい。それが楽しいから山に行くのです。

藤本 好奇心や向上心が、今井さんをつくったのですね。

今井 昔から好奇心旺盛で、チャレンジ精神もありましたね。

山に必要なのは、「感性」と「行動力

藤本 女流登山家として、これだけの活躍は本当に素晴らしいと思います。今井通子さんとの対談写真 その3

今井 経済的、人格的に自立した両親に育てられた家庭環境もあったと思いますが、私自身「女だからできない」「結婚しているからできない」と、思ったことはないですね。やりたいことは自分で何でもやってきました。

藤本 素晴らしい生き方ですね。今は少子化の問題からも、女性の生き方が問われています。男女共同参画の推進委員や講演活動など、幅広くご活躍ですね。

今井 活動としては、1990年ごろから地球環境問題に積極的に関わっているほか科学、健康、教育などの委員、最近は、中高年の山ブームも手伝って、さまざまな「ツアー」の仕事が多いですね。カルチャーセンターなどでは、中高年向けの「山の楽しみ方」講座も開いています。

藤本 今では定番の「ヨーロッパアルプスツアー」や「ヒマラヤツアー」も、最初は今井さんが企画されたそうですね。

今井 ヨーロッパでは当たり前の「山で楽しむ」行為が日本にはありませんでした。いい景色を見てリラックスする。非日常の旅で自分なりの何かを学び、考えてもらいたいと思ったのです。

藤本 アルプスやヒマラヤへの夢も、まさか叶うとは思いません。その点、お医者様でもある今井さんのツアーなら安心です。

今井 高度を考慮したルートを練るなど、気を配りました。安全と安心の中で、その人なりの楽しみ方ができるツアーです。

藤本 人々に夢を与えるツアー。とても贅沢な旅ですね。

今井 あるとき、長年エリート人生を送ってきた方が参加されました。「ルーブル美術館めぐり」にも参加したけど、これに優る贅沢な旅はないと、私たちのツアーを絶賛されました。「もう自分には吸収すべき物がないほど突っ走ってきた。これからは、都会で吸収した物を自然の中で放出したい」とおっしゃるのです。

藤本 価値観の見直しでもありますね。

今井 自然の中に自分を投げ出す幸せを実感されています。山ではお金があっても何もならないでしょ。

藤本 これからの時代は、そういう人も増えていきそうですね。ところで今井さんは、今でもよく山にいらっしゃるそうですね。

今井 3種類のつきあい方があります。ひとつは自分の楽しみで行く山行。一方で自分の能力を高めるための山行。3つ目は、他人様をお連れする山行です。山の楽しみ方は人それぞれ。もっと気楽に山へ行き、自分流に楽しんでほしいですね。

藤本 今井さんが「登山家」ではなく「ナチュラリスト」とも呼ばれるゆえんですね。

今井 自然は人々を心豊かにします。世界を見ると、日本は必ずしも裕福でも幸せでもないですね。第一、子どもの目の色が違います。モンゴルやネパールの子どもたちは、したたかでパワフルに生きています。

冒険心がなくなった大人たち

藤本 教育も経済も行き詰まり感があります。子どもたちの問題もいわれていますが。今井通子さんとの対談写真 その4

今井 問題は、子どもではなく大人です。大人に冒険心がなくなりました。自分に自信も勇気もないから、外に出ようという気になれないのでしょう。海外から帰国して、テレビを見ると違和感を感じますね。

藤本 どんな風に?

今井 ワイドショーを見てもニュースを見てもうんざりです。しばらくすると、慣れてきて、私も見てるんですけどね(笑)。

藤本 私も、私も(笑)。

子どもは自然の中で遊ぶのが一番 

今井 子どもの事件などを見ていて思うのですが、脳の問題も大きいようですね。医学的、生物学的に証明されてはいませんが、水や空気、食物など有害物質の影響はあるでしょう。

藤本 今どきの子は落ち着きがないとか、キレやすいとかいわれていますが、そういうことも影響しているのですか。

今井 昔からそういう子もいたんです。ただそれは、たくさんの個性の中のひとつとして認められていた。家族や地域の中で相手をしてくれる人手があったので、自然にコミュニケーションがとれていたのです。

藤本 そうですね。昔は地域や遊び場もあったし、子どももたくさんいましたからね。

今井 その中でさまざまなことを学んでいた。それが、今の子どもたちは、自然の中で「どう遊んでいいかわからない」とくる。

藤本 家の中でゲームやパソコンをする子どもも、非常に増えています。

今井 1か0しかないデジタル社会の中だけで、子どもを育てていくのは危険です。子どもは自然の中で遊ぶのが一番。もっと、動物的な環境においてあげないとね。

藤本 実は私も、一度だけ穂高(※)に登ったことがあるんです。途中は苦しかった。でも最後は「自分にもできた」という自信になりました。

※穂高岳/岐阜県の名峰。北穂高3106m・奥穂高3190m・前穂高3090m・西穂高2909mの4つのピークと、北穂高と奥穂高の間にある涸沢岳を合わせて呼ぶ総称で、穂高連峰と呼ぷ。

今井 新しい世界が開けたんじゃない?

藤本 もう一度私も、健康とリフレッシュのために山に挑戦してみようかな。

今井 よかったら、我々の仲間でつくっている「クラブ・ベルソー」(※)に遊びに来ませんか。20代〜80代の山の好きな連中が集まっていろいろなことをやっています。いきなりすごい山に挑戦しようなんて思わずに、ハイキングでもトレッキングでも、カヌーでもいいんですよ。みんな自分の人生を送っている人ばかりです。今井通子さんとの対談写真 その5

※クラブ・ベルソー/山や自然に親しみ、会員相互の親睦をはかることを目的とする。今井通子さんを中心に、楽しく「山」に関わる20代〜80代のメンバー約160人で構成される。

藤本 うらやましいですね。駅のホームまで息を切らさずに上れるようになったら、ぜひ伺わせてください。そのときは、どうぞよろしくお願いします(笑)。

今井 期待して待っていますね(笑)。

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