吉田 女性棋士はイベントや教室も多いのですが、私は立場上、碁界と要人の橋渡しなど、棋士としての公の仕事も多いですね。昨年は朝日新聞で『棋士のひとりごと』という連載コーナーをいただいたんです。
藤本 我々の知らない碁の世界をとてもわかりやすく、楽しく書かれていて感心しました。きっとたくさんの方が興味を持って読まれたでしょうね。
吉田 その気になって、文筆活動でも碁を広められたらなあとも考えているんです。
藤本 文章にも表われていましたが、厳しい世界で頂点を極めた方とは思えない、気さくなところが吉田さんの魅力ですね。
吉田 まだまだ極めてなんていませんよ。
藤本 でもそのおおらかな笑いっぷりからは、碁を打つ姿が想像できません。
吉田 今度、対局を見てくださいよ。あまりの形相にビックリしますよ、きっと。
藤本 そんなにこわいんですか。
吉田 皆さんによくいわれます。それほど、集中しているんです。何しろこれまでは、本当に「幸運」でした。私なんて、まだちっとも自信がなくて、一手一手本当に揺れているんです。完勝なんてあり得ません。
藤本 勝つためには、何が必要ですか。
吉田 プロなら一日8〜10時間の勉強が必要といわれますが、私は2〜3時間。気分転換にマンガを読んだり、体力づくりのために山歩きをしたりもしています。持ち時間が5時間の対局なら、2人で10時間。心技一体は理想ですが、なかなかそうはいきません。常に精神と体力と両方を鍛える必要があるわけです。
藤本 10時間も集中できるものですか。
吉田 知力も大事ですが、日ごろから感性を磨いておくことも大切です。それに、最後は「運」だと思いますよ。以前、初タイトルを取ったときの話です。ずっと押されていた手合いで、「負けや負けや」と思いながら、「最後まで最善は尽くそう」と打っていたそのときです。間違えるはずのないところで、相手が間違えてくれたのです。
藤本 「魔物がいる」といいますね。
吉田 人間の力ではどうにもならない「気」のようなもの。布石の段階で全然見えていなかったのに、ある瞬間「置きたくてたまらない」ほど一点が見えてきたり、反対に調子よく鼻歌まじりでやっていたのに、返し技で逆転負けをしたりしてしまう。
藤本 本当に奥が深いのですね。最後に吉田さんの夢を教えてください。
吉田 一生を通して「碁打ち」であり続けたいと思っています。
藤本 ぜひ吉田さんらしい碁を打ち続けてください。私も応援させていただきます。今日は本当にありがとうございました。