藤本 ごく平凡な女性に何が起こったのでしょう。
木村 結婚、出産と、理想的な幸せのレールに乗っていました。ところが、ひとりの母親になったとき、不安に襲われた。子育てに、全く自信が持てないのです。
藤本 大学、就職とスムーズに進まれた木村さんが、母親になった途端に自信をなくされたのですか。
木村 子どもの気持ちがわからず、とにかく子どもの心理を知りたかった。だから児童心理学を学んだのです。
藤本 すごいですね。自分の子どものために勉強するなんて。
木村 ところが問題は、教授が話していること。つまり心理学の本に書いてあることと、私の子育ての中で起きていることが随分違ったんですよね。
藤本 どんな発見があるのですか。
木村 たとえば、ひとつの色を見せると子どもがどう反応するかとか、子どもに着せた服の色や寝室の天井の色、壁紙やカーテンの色や柄が子どもの心理とどう関係するかなど、毎日の子育ての中で次第に明確になってくるのです。子育てをしながら、たくさんの臨床データが取れました。
藤本 木村さんにとっては、子育ての場が、まさに臨床(実験)の場だったのですね。
木村 子どもを見ていると、不思議なくらい心理状態がわかってくる。それで初めて、私は自分の子育てに自信が持てたのです。
藤本 すごいのは、子育てと学問を一体化させてしまったところですね。
木村 子どもが好きだったことが大きいですね。もっと児童心理を学びたいと思い、とうとう留学をしてしまいました。心理学を学んでいく中で、さらに行動心理学、社会心理学、教育心理学と広がり、最終的にはどの学問にも「色」というものが深く影響していることに気がついたのです。
藤本 そのころは、子連れで留学する人は珍しかったのではありませんか。
木村 そうですね。近くには姑や親戚もいて、かなり干渉されていました。窮屈を感じて「家を出たい」と訴えたこともありましたが、夫は私を非常に理解していて、「君には4畳半1間の生活はできないよ」と。今思うと、彼が一番の応援団だったのでしょう。彼も勉強で日本を離れることが多かったですし、私と子どもも日本と海外を行ったり来たりという生活でした。
藤本 お互いの生き方を尊重できる夫婦なんて、素敵ですね。言うのは簡単ですが、現実はなかなかそうはいきません。ましてやお子さんが小さかった…。
木村 小学校に入る前です。子どもが学校へ上がると(学校を)休めなくなるので、幼児期の今がチャンスだと思ったのです。
藤本 普通の発想だと、子どもが大きくなってから勉強しようとしますが、木村さんの場合は反対なんですね。
木村 思い立ったときが一番でしょ。私の場合は、子どもの成長と共に学んでいるので、いつから勉強しようと考えるゆとりもなく、毎日の子育てが発見でした。たとえば乳児期は、母親が選んで赤ちゃんの生活環境をつくります。おもちゃから洋服から部屋の色まですべて。子どもは選ぶことができませんからね。ところが幼児期になると、子どもは自我の発達と共に自分で選ぶという行動を始めます。つまり、その子の育った環境が大きく影響するのです。
藤本 それはセンスにもつながるのですね。母親としては、ドキッとします。
木村 わが子の成長過程で、とくに私がこだわったのが「色」でした。これがすべてに影響していると感じたことが、私の「色彩学」の始まりです。
藤本 それにしても、多くの母親たちが毎日の子育てにゆとりも持てずに暮らしているというのに、木村さんは見事に子育てと学問の両立を、いえ、「融合」を果たされたのですね。しかもその経験を、今はビジネスとしてつなげています。
木村 最初からビジネスをしようと思ったのではありません。子育てをし、地域づくりからのスタートでした。だって、いくら児童心理を学んでも、就職先があったわけでもないし、子どももいたわけですから、すぐに仕事など考えられません。むしろ、私は家庭にいることが好きでしたし…。
藤本 どんなことを始められたのですか?
木村 たとえば、絵本の読み聞かせです。これからは多言語の時代になると確信し、子どもがお腹にいるときから、海外のきれいな絵本で、英語で読み聞かせをしていました。そんな経験から、近所の子どもたちを集めて「ご本を読んであげるね」と。いつの間にかたくさんの子どもたちがわが家に集まってきました。おかげで一人っ子の息子はいつも友だちに囲まれ、それは楽しい毎日でした。