藤本 でも黒田さんて、いったい何者なんでしょう。サラリーマンをなさっていたこともあると伺っておりますが。
黒田 ずっと前だよ。就職したけどすぐ辞めちゃった。それからずっと、フリーだよ。
藤本 なぜですか?
黒田 誰だって他人の人生を決められるものじゃないんだよ。自分で自分の人生を決める。それなのに、会社は人のことを「ダメ、ダメ」と言う。「黒田くん、もっとこうしなさい。ああしなさい」と。ぼくはね、人が歩いた道じゃなく、自分の足で歩いてみたいと思ったんだ。
藤本 すごく勇気がいることですよね。
黒田 ぼくにとっては全然すごくもないんだけどね。むかし、牛乳配達をしながらデザインの学校に行ってたことがあったんだけど、ぼくは「パン」を配達したんだよ。
藤本 パンの配達ですか?
黒田 珍しいでしょ。新聞や牛乳を商売にするには「許可」が要る。それに早起きしなきゃいけないし。食パンなら昼間の配達でいいし、家によって4枚とか、5枚とか欲しい枚数が違う。配達に行って紙を渡して「パンが何枚、それに欲しい物、たとえば卵とか、次の注文を書いてください」って置いてくるようにしたんだ。
藤本 御用聞きですね。それにしてもなぜそんなことを?
黒田 世の中、間違ってる。お金がない人が高く買って、お金のある人は安く買うなんて。たとえば車のローンがいい例でしょ。
藤本 利息を払っていくわけですもんね。
黒田 これは絶対おかしい! 困っている人のために、ぼくが安く仕入れてあげようと思ったんだよね。
藤本 でもいったいどうやって?
黒田 野菜をつくっている人、漁をしている人。養鶏所にも行ったけど「仲介と契約しているから売れない」って断られました。
藤本 それは、困りましたね。
黒田 ダイエーさんにお願いしてみようと、出かけました。当時は今ほど大きくありません。でも、あちこち仕入れに行くのは面倒くさい。ここなら1か所で済むやろって。
藤本 何をどうお願いしたんですか?
黒田 「買い物に来られない人に届けます。歳とった人もでけへんやろ」って。そしたら「君、面白いな。うちへ来んか?」って。
藤本 すごい!
黒田 けど、壁にこんな紙が貼ってあった。「電話代1秒いくら?」。それ見て、中に入ったらこんな発想通らんと思ってやめた。
藤本 ダイエーを蹴っちゃったんですね。
黒田 それと、もうひとつ。ぼくは徳島の人間だから「阿波踊り」に、みんなを連れて行ってあげたい。当時は橋もないから、船で何時間もかけて行って、死ぬ気で踊って、その後、銭湯で着替えて、その夜の船で帰ってくる。泊るお金がなかったからね。
藤本 阿波踊りは、すごいらしいですね。
黒田 見るも踊るも、全員参加です。
藤本 残念ながらまだ見たことないんです。
黒田 見てたら自然と体が動き出します。これがなかったら今ごろきっと電柱に登ってる。工業高校だから。でも実際は2年間だけサラリーマンやって、パン屋さんやって、花屋さんやって、それからずっとフリーな自営業。まあ人間、何をやっても食べてはいけますよ。
藤本 そのころ結婚はされてたんですか?
黒田 ハハハ。心配ですよね? 妻の立場としては。絵なんか描いているより、会社に入ってもらったほうがいいか…。
藤本 そんなことないけど…。パートナーとはどこでお知り合いになられたんですか。
黒田 24歳のとき。絵のサークルに入っていて…。親友に彼女がいて、ぼくがいて。ダスティン・ホフマンのようなもんですわ。
藤本 映画『卒業』のラストシーン。もしかして結婚式場から彼女を奪って逃げたとか!? やっぱり! 黒田さんのお描きになる絵や文字を拝見していて、こんなすごいモノを描ける人は、ただ者ではないと思っていました。すごい大恋愛とか?
黒田 そんな大したことないけど、これまでの人生があって今があることは確かです。
藤本 黒田さんの作品はいつ、どんなときに生まれるんですか?
黒田 話していてこれはいい言葉だなと感じたらちょっと書いておいて、熟しておく。噛み砕くとどうかなと練ってみたり、あれこれ言葉を置き換えてみたり。いざ筆を持って描く瞬間まで、変わるかも知れません。
藤本 言葉って難しいですよね。1文字違うだけで全く違ったニュアンスになったり。
黒田 先日、面白いことがありました。ギャラリーに作品を見に来た若者が「この詩、素晴らしいですね。ちょっと、メモしてもいいですか?」って聞くんだよ。そしたら、ノートを出して一生懸命書き出したんだよ
藤本 それで?
黒田 結局彼は全部を書き写して、何にも買わずに帰って行ったんだよ。でもそのあと電話してきて言うセリフがいいんだよ。「先生、あれ全部ふつうの言葉ですね」って。
藤本 黒田さんの「漫書」は独特の世界。あの文字だから、味わいがあるんですよね。
黒田 ぼくは日本で唯一の「漫書家」。こう言っているのはぼくだけだからね。よく、相田みつをさんと比較されることがあるけど、ぼくはずっと前から描いていたんだよ。
藤本 相田さんとの違いを一言でいうと?
黒田 一生懸命やってがんばったけど、ダメならあきらめたっていいじゃない。そのままのあなたでいいんだよ、というのが彼の言葉。ぼくは、がんばろうって言ってしまう。同じ人生歩むなら楽しくやろうよ。仲良くやろうよって。
藤本 私もがんばっちゃうタイプです。黒田さんの漫書は人間讃歌的ですが、いつも講演は、どんな方を対象になさるんですか。
黒田 経営者だったり、まちづくりだったり、お母さんだったり、子どもだったりと、多種多様。すべての人間に対して、共通する部分がたくさんあります。講演のテーマはさまざまですので使い分けています。