藤本 じゃあ、その時間は何をしてるんですか。
植上 もっぱら情報収集やな。1日に本を2〜3冊。新聞は片っ端から目を通しとるもんな。
藤本 さっすが、勉強熱心ですね。でも、ウエちゃんのネタのほとんどは「お客様」の人間模様ですよね。
植上 そう。本業は笑わせてなんぼのタクシー運転手やからな。本や新聞は、お客さんとのコミュニケーションツールやねん。
藤本 でも、ネタをいっぱい持っていたとしても、笑わせるためには、ハンパじゃないテクニックがいるでしょ。それって何でしょう。
植上 なんなんやろぉ? でもよぉ考えたらワイが笑わすんやなくて、乗ってくるお客さんたちがあまりにも強烈過ぎるんですわ。運転手仲間も皆口々に言うんやけど「なんでおまえの車ばっかり、おもろい客が乗ってくるんや」って。
藤本 類は類を呼ぶという言葉もありますけど。いえいえ。これは、長年培われた、ウエちゃんの巧みな話術のたまものですよ。
植上 こっち(関西)の人間は、吉本みたいなん見て育ってるやろ。オチがないと落ち着かんのやろな。ワイもその口や。
藤本 こっちの人は面白過ぎる。悲しいけど、ボケられても上手に突っ込めない。
植上 最近はいろんな地方の人も乗せるけど、やっぱりナニワのおもろいオバはんと、危ない連中ほどネタになるもんはない。
藤本 インターネットのWebマガジン(※1)もそうですけど、あれだけ本(『笑う運転手〜ウエちゃんのナニワタクシー日記』本の雑誌社刊)が売れちゃうと、ノンフィクションだけに、脅しとかこわくないですか。それに同業の方々からもいろいろいわれるんじゃないですか。
※1webマガジン/インターネット上で、定期的に発信される雑誌。誰でも自由に読む(見る)ことができる。
植上 これだけIT社会(※2)になっても、タクシー業界ではいまだに「イット社会」と読む人がごまんといる。ワイの記事を読んでる人もまだ少ないし、読んどっても静観しとる感じやな。
※2 IT社会(informationtechnology)/情報技術の発達した世の中。パ ソコンやコンピュータ、ケータイ等を活用し、情報をやりとりする社会。
藤本 ◯◯組の誰それさんとかって、時々怪し気な人の話も出てきますけど。ああいった方面からの圧力とかは。
植上 ないない。危ないとこはギリギリ回避してるさかい。
藤本 そのへんはさすが。良からぬ行為をするまちの若者や、態度の悪いお客様に向かってウエちゃん流に叱責されるシーンが、度々出てきますもんね。ほんとにこわくないですか。
植上 こぉ見えてもワイは、日本拳法三段やからなぁ。新聞で見た通信教育やけど…。「腕力に自信あり」は強味やね。あとは、さりげなく人を見る。本当にこわい人と、見せかけだけの人。人を見て逃げることもある。
藤本 その、人を見分ける観察能力がスゴイ。
植上 旅行業界にいたころから、人を見る目は肥えてたな。悪い人は匂いでわかるんや。ホンマに、タクシーっちゅーのは人生劇場そのもの。毎日がドラマでおもろいわ。
藤本 好奇心旺盛な人にはピッタリ!
植上 そうそう。いろんな人がいて、勉強になりますわ。人間ウォッチングは楽しいで。
藤本 そういう意味では、今教育の現場で叫ばれている「生きる力」をつけるには、この業界は最適ですね。
植上 ハハハ。よぉそんな、恐ろしいこと言いはりますな。
藤本 だって、世の中にはいろんな生き方をしている人やいろんな考えの人がいるってことを知らずに大人になってしまう子どもたちが、とっても多いんですよ。そうだ! ウエちゃん今度、子どもたちの前で、いつも書いてるような話、してもらえませんか。
植上 あかんわ。こんな怪しい男、認めへんで。
藤本 そんなことないですよ。だって、今日の対談もこうして実現した。教育業界も、むかしとはだいぶ違ってきていますよ。
植上 そやけどホンマ、最初はびっくりしたわ。ワイが教育雑誌に載るなんて。振興公社さんもよっぽど奥が深いか浅過ぎるかどっちなんや、思うて。
藤本 ハハハ。ほんと。一体どっちでしょう。
植上 ハーイ到着。ここがウエちゃんの「ナニワB級観光コース」の目玉「甚兵衛渡船場」。ワイは、この船に自転車を押しながら乗り込んで毎日通勤してるんですわ。
藤本 へぇー、叙情的。なんかロマンチック。
植上 えらい大阪くさいやろ。水の都・大阪は、この渡し船なしには語れまへん。市内に残る8か所の航路は、今も大切な市民の足。タダっちゅうのがえぇやろ。
藤本 えぇっ。今どきタダ なんてあり!?
植上 そこが大阪やね。これ100円でも取ったらだーれも乗る人おらんで。うちの嫁はんも、子どもらもみんなあっちの橋の方ぐるっと回って行きはりますわ。
藤本 えぇっ!? あんなに遠回りなのに。
植上 そやから大阪人はしっかりしとるんや。とくにうちの嫁はんみたいなんは。
藤本 でも、そのパートナーのおかげで、タクシー運転手のウエちゃんがあるんでしょ。
植上 たまたま嫁はんの父親が個人タクシーやってはって。いずれ権利をもらえるっちゅうんでな。長いことプータローもでけへんしな。
藤本 それにしてもお義父様も、今日のウエちゃんの姿を、想像はしてなかったでしょう。
植上 そりゃぁそうや。でもワイも、こんなにすぐなれるなんて、思わんかったもんな。
藤本 そんなに簡単になれるんですか。
植上 履歴書もろくに見んと「ほな採用。明日から第二種免許取りに行って来て!」って。ちゃんと入社試験くらいせんと、質がわるぅなるんや。「タクシー運転手」ゆうて、何かといわれてる原因はここや。
藤本 そんなことないでしょ。
植上 あるある。お父ちゃんがタクシーに乗っとること、隠しとるお母ちゃんも中にはおるで。ネクタイ締めてアタッシュケース下げて通勤してくるわ。子どもにも隠しとるんやて。
藤本 ほんとですか。それはよくないですよね。自分の仕事に誇りを持ってほしいな。
植上 ほんでもな、感じの悪いヤツもぎょうさんおるけどな。
藤本 そんなことないですよ。大阪の運転手さんたちは、みんな愛想がいい。乗ったら必ず声をかけてくれるし、気持ちがいいですよ。
植上 ワイらサービス精神は確かにあるな。お客さんに「黙っとれ」言われてもしゃべりよる。
藤本 いるいる。やたらと話してくる運転手。
植上 ハハハ。それワイや。毎日「黙っといて!」言われとるわ。