田上 私の場合、こういうアドバイスをくださる方が周りにたくさんいらしたので幸いでした。でも残念
ながら多くのお母さんたちは、思春期の子どもを抱えて誰にも相談できず、苦しんでいます。「あんなにいい子だったのに。私はこんなに一生懸命やってきたのに…」と。
藤本 子育てに一生懸命になり過ぎたばかりに、母親が自分をなくしてしまうのですね。
田上 子育てには段階があって、親の希望を押しつけるのではなく、子どもが求めるものを渡せばいいだけ。だから親は親で、自分が生きたいように生きていくのが一番。だって、それが一番の「生き方モデル」でしょ。もし今まで、これに気づいていなかった人は、今からでもいい。さっさと楽しみを見つけなきゃ。
藤本 そうですね。子どもに手本とされるような、気持ちのいい生き方をしたいですね。
田上 それから、私がいろんな人に助けられたように、ネットワークがものすごく重要です。うちもたくさんの葛藤があったけど、親も子も孤立していなかったおかげで、長期化せずに済みました。だからこそ、孤立化しない子育て環境をつくらなければと、実感しているのです。
藤本 今は少子化の影響で、全国的に子育て支援ブームが起きていますが。
田上 行政には限界もあり、これからは民間との協働が必要でしょう。母親を孤立化させないためには、家庭という子どもと密接な居場所以外に、安心してくつろげる空間、感情のはけ口があればいいですね。歩いて行ける範囲に仲間がいる環境。もし、今それがなければつくればいい。3人いればもう組織でしょ。ひとりではできないこともできる。それだけ発想も豊かになります。でも、その分コミュニケーション力、経済力…といった、別の問題も生まれます。
藤本 たとえばサークルをつくっても、活動する場所がない、お金がない。仲間が増えれば、価値観の違いによって、もめ事が発生したり…。
田上 経済的、空間的なサポート。そこは行政の出番です。母親たちは、コミュニケーション力やノウハウがなかったら教育を受ければいいし、持てる能力を生かす「エンパワメント」が大切でしょ。私は今、それをやっているんです。
藤本 私がやらなきゃという、そのエネルギーはどこからくるんですか。
田上 エネルギーというより、人として、人間として、親としてというのもあります。「NPO女性と子どものエンパワメント関西」ではさまざまな活動をしています。「CAP」(※2)にしても「ペアレンティング」にしても、ファシリテーター(※3)養成講座を開き、できるだけ多くの人に広めたいと精力的に働いています。昨年からは事務所と併設して、このフリースペース「ほっとすぺーす」という場をつくりました。
※2 CAP(Child Asssult Prevention)/子どもへの暴力防止プログラム。18歳未満の子どもに対する虐待、暴力行為、子ども同士のいじめなどにどう
対処するかを、親、教師、子ども自身に教える人権教育プログラム。
※3 ファシリテーター/目的に向かって共に考え一緒に歩んでいく人。この場合はプログラムを理解して広く人々に伝え一緒に考えていく人。
藤本 ここは、木のぬくもりのあるあたたかい空間ですね。お母さんたちは、どのように活用されているんですか。
田上 定期活動としては月に2回。そのつどテーマや内容を変えて、楽しいサロンや勉強会を開催しています。普段はお母さんたちが交替で常駐し、子育てに不安な人がふらっと立ち寄って悩みを打ち明けたり、気軽に話したりする場になっています。
藤本 母親たちにとっては「家庭」とは違う、もうひとつの居場所というわけですね。
田上 女性たちが、企業社会ではできない社会を積極的につくっていく。私たちのような活動が全国に広まれば、たくさんの親子が楽になるでしょう。そのために、今はその人材を育てていくことが私の大きな仕事になっています。