井村 一流のシンクロ選手になりたい子どもたちは、私と出会ったら、みんな最初はハートマークで見つめてくれます。井村シンクロのジャージ着たら、それだけでオリンピックに行ける気になってしまう。
藤本 カリスマジャージですね。
井村 親もそう思い込んでいる場合が多いのです。でも要は、このジャージを着て何をするか。目標を持った子どもたちの前にはレールはある。素晴らしい先輩がたくさんいる。この先輩たちを超えるのはあなたたち自身だと教えます。
藤本 実際に世界一の選手たちを見て接して、子どもたちはどういう反応を示すのですか。
井村 うち(井村シンクロ)は門は広いから誰でも入れます。でも途中で「シンクロに向いてないようだから…」とやめていく人もいます。そのときに大切なことは、シンクロはやめるけれど、次のことに向かってがんばろうという気持ちを持っているかということです。
藤本 目的を持って去るのであれば仕方ない。
井村 立花美哉も武田美保もテレビで見るとすごい人に見えるけど、私生活は普通の女の子です。スポーツ選手でかっこいいのは競技で勝ち、普段は人を思いやれる普通の人であること。反対にかっこ悪いのは、スポーツが強いだけで自分は偉いと勘違いしてしまうこと。プールでは「世界一私はキレイ。隣りの子に負けてたまるか!と思ってやれ」と、とにかく、「プールは戦いの場である」と教えています。
藤本 そうやって勝負に勝たせるんですね。
井村 「あんたらはシンクロで一番でも人間性は一番じゃない。プールから上がったら世の中にいる人みんなが先生だ」と。で、また水の中では「あんたは女王様よ」言うて育てないとダメ。
藤本 そのあたりの切り替えが大変ですね。
井村 ジキルとハイドのような二重人格者を育てているのかと思いますよ。
藤本 人を育てるのは、本当に難しいですね。
井村 シンクロがいくらすごくてもそれはひとつの通過点に過ぎない。長い人生を考えたら、シンクロ選手でいる時間なんてほんとにわずか。選手をやめたら、もう足を上げることなんかないんだから、それよりもっと、シンクロを通じて何を学ぶかが大切で、たとえば礼状をきれいに書けるとか、あいさつをきちっとすることが大事なんや。謙虚になれって。
藤本 謙虚さ」がなければ人は成長しない。でもここの選手たちは「タダ者」ではないですよ。
井村 自分の中で「たかがシンクロ。何もすごいことないよ」と思いながら、「されどシンクロ。人々に勇気も与えられるシンクロなんや」と思ってるんです。
藤本 あいさつといえば、シドニーオリンピックの「空手」を取り入れた演技は斬新でしたね。
井村 実はあれ、大変だったの。たった8秒の陸上動作のために9か月もかけた。一流の先生に、気品と誇りを持った最高のあいさつも習いました。
藤本 シンクロと空手の組み合わせに世界じゅうが沸いた。
井村 曲のテーマやコンセプト、とくに「技」を考えるのがコーチの重要な仕事です。よかったからといって繰り返すのは足踏みするのと同じこと。いえ、必死で勝負を挑んでくる人たちは、それ以上のものを用意してくるはずです。
藤本 それに打ち勝っていくためには…。
井村 あのときも、真剣に悩みました。常にライバルがいて、追い抜こうと思うばかりについ垂直思考になってしまう。ですから、もっと視野を広げて、さまざまな角度から考えてみる。
藤本 私も企画に煮詰まったときは、全く違うことをする。違った場所に行く。久しく会っていない人に会う。発想の転換を試みるのです。
井村 そう。ちょっとした遊び心を持って水平思考を心がけたのです。そうして周りを見てみると、今まで見えなかったものが見えてきたり、耳を傾けることで新鮮な情報を手に入れたり。
藤本 なるほど。水平思考とは面白いですね。でも、オリンピックほどの大舞台となると、一体どんな風にテーマを導き出すんですか。
井村 単純な発想です。全世界の人々がオリンピックを見る。その人たちの共通点は何かと考えたとき、日本には「四季」がありますが、ない国もある。「雪」を知らない人もいるし「平和」でない国もある。「癒し」を表現しても、それを見て傷つく人もいる…。世界の人々の共通点は「愛」と「信じること」くらいしか見つかりませんでした。そこで、自分の国である「日本」を表現しようと決めたのです。
藤本 プロデューサーとしての勘が働いた?
井村 武道の先生の所へおじゃまして、凛とした空気に触れました。本物の「空手」を見て「コレだ!」と思いました。そして「おじぎ」を見て「よし、笛が鳴る前に勝負を決めてやろう!」とひらめいたのです。
藤本 選手たちの反応はいかがでしたか。
井村 ど素人の選手たちですから一からの出発でした。超一流の先生が時間をかけてくださったのですから、結果を見せたかった。学ばせていただいたことに対する「感謝」の気持ちです。
藤本 最高の結果が出せてよかったですね。ところで、学校についてはどう思われますか。