藤本 所長のように経験豊富な方はいいけど、そうでない先生はどうすればいいんですか。
浜田 22歳で学校を出た途端に、誰からも「先生」と呼ばれてしまうわけやからね。大切なのは、これからの情報化社会に則して、アカウンタビリティ(※2)、つまり何をどうするかを学校側が説明せなあかんということやね。「こういうものをつくりますから、お母さんどうですか?」とメッセージする。アメリカのチャータースクール(※3)のように、お母さん方も「先生どーいうことですか? 違うんとちがいますか?」、文句の前に質問することやね。
※2 アカウンタビリティ(accountability) 説明責任と訳されることが多い。実施義務。
市民にわかりやすく説明する義務を負うという考え方。
※3 チャータースクール(charter-school) 一言で言えば「手づくりの公立学校」。教育
方針の事業案を申請し承認されれば、自治体と契約し補助金を受けることができる。
藤本 いわゆるパートナーシップですね。
浜田 お母さん方は、先生は当事者だが、自分は当事者ではないと思うてる。まずは当事者意識を持つこと。自分が学校を変えると思わなければ、学校は変わらない。
藤本 母親たちを見ると、「総合的な学習」は聞いたことはある、「人材バンク」もプリントはもらったがよくわからない、という現実があるようです。
浜田 パンフレットもつくっただけでは伝わらない。どう伝えていくかが今後の課題だ。
藤本 「人材バンク」も、特別な人しか登録できないと思い込んでいます。
浜田 「人材バンク」はね、大阪市が全国で一番最初に始めたんだよ。パンフレットには「学校の授業などで、地域の人のさまざまな知識・技能、あるいは豊かな経験を、ボランティアとして生かしていただくために、個々の人材情報を登録するもの」とある。
藤本 母親たちの能力を生かせる場ですね。
浜田 そうそう。団塊の世代だけじゃなく、20代、30代の若いお母さんたちにも活躍してもらいたい。
藤本 私は母親業というのは、毎日が「総合的な学習」の実践だと思うんです。
浜田 だから一緒に子どものことを考えよう。「どうしたらいいの?」と思ったら、まずは一緒のステージに上がることやね。
藤本 先生方も地域のネットワークをつくったり、「総合的な学習の時間」の研究が必要ですね。
浜田 ええ。大阪市の学校園でつくっているネットワークのWebページでもいろんな取り組みを紹介し、たくさんの情報を公開しています。データのメンテナンスや環境は行政の責任でしっかりつくっていくから、お母さんたちは、先生や子どもに面倒がらずに対応してほしい。先生に「ちょっとどーですか?」と聞く。まずはそこからやね。
藤本 関心を持つことから、一歩ですね。
浜田 内輪の話やけど、家内も60(歳)過ぎてから何かやりたいなんて言い出した。今はボランティアで外国人に日本語を教えてるよ。
藤本 素晴らしい活動をなさっているんですね。
浜田 地域の中で関わることが大事。ひとつ関わるとそこから広がるからね。物事ってみんなそうでしょ。それから、教育で何が大事かいうたら、つくり事、にせ事はダメ。子どもはすぐに見抜いてしまう。
藤本 形ばかりじゃダメだということですね。
浜田 「本気」で子どもと向き合わなきゃね。
藤本 人材バンクはどのくらいあるんですか。
浜田 現在523校で、「大阪市学校支援人材バンク」への登録者数は904人となっています。
藤本 どんな人が登録されているんですか。
浜田 さまざまですよ。人間国宝級の人もいれば、弁護士や医師、調理師さんもいる。登録には、学校や公的機関・団体による推薦が必要です。
藤本 たとえば5人の子どもの母親はどうですか。子育ての経験やノウハウをたくさん持っていますよ。
浜田 なるほど。新しい発想だね。
藤本 子育ては大事業です。5人を育てた経験や知恵はものすごいと思います。 (人材バンクのパンフレットを見て)10に分類される「活動分野」とは、1国際・外国語 2社会・生活 3大阪文化 4人権・平和 5福祉・保健 6経済・産業 7自然・環境 8科学・技術 9文化・芸術10スポーツって、これだけジャンルがあっても、「子育て」という分類はないんですね。
浜田 そうやね。今の時代は役所も幼稚園も「子育て支援」と言ってるのにね。
藤本 今年度の「東京都福祉のまちづくり条例」には、「子育て」という項目が盛り込まれました。今は「子育て」は大切なキーワードです。
浜田 商店街のおっちゃんやおばちゃんだけでなく、母親たちも受け入れなきゃダメだね。
藤本 学校に関心を持つきっかけになるはずです。
浜田 お母さんたちを含め、地域の人々がどう学校教育に参加するか。三者の連携プレーが必要だね。
藤本 所長の考える真の教育とはどんなものですか。
浜田 たとえばアメリカでは、自分はこうしたい。なぜならこれこれこうだからと、きちんと説明するでしょ。子どもの意思も尊重する。一人ひとりが自覚と責任を持っているから、自らが考えて行動する。
藤本 思っていることを素直に表現する力ですね。
浜田 そう。プレゼンテーションの力です。
藤本 自分の意見を持っていない母親、それに価値観の違いと好き嫌いを混同する人が多い。お互いの生き方を尊重することが大切。本来、コミュニケーションとは、相手を理解することからですね。
浜田 向こうではね、子どものこづかい交渉もしつこいよ。「ぼくはこういう物が欲しいから、これだけ欲しい」「これで間に合うだろう」「いや、もう少し上げてほしい」…と。
藤本 当たり前に教育されているわけですね。
浜田 それが「生きる力」。自分の考えをしっかり持って、考えの違う人に対してどう表現していくか。
藤本 子どもだけじゃなく、親も同じですね。
浜田 それから心豊かな感性を育てていくこと。「愚かしいものは、見ざる、聞かざる、言わざる、無関心」という言葉もあるよ。と同時に、教育は予定されたように動くものではない。不測の事態にどう対応できるかが先生の力量だ。
藤本 確かにそうですね。教室では想像もつかないことが次々に起こる。
浜田 そのためにも、先生は専門的な勉強だけではダメ。人間的に成長していかないと。
藤本 人間性が問われるのですね。先生たちも個性を発揮するときですね。
浜田 お母さんたちにも協力してもらわないとね。
藤本 もちろんです。この『ビーボラビータ』は、学校と家庭と地域を結ぶ教育情報誌。将来の子どもたちのために、パートナーシップを目指しています。
浜田 我々が目指すものと同じやね。
藤本 ところで、この表紙いかがですか。ビーボラビータはイタリア語で「自分らしく生きる」という意味なんです。
浜田 い〜ね〜。いいと思うよ。すべての人が子育てに関わりながら、自分らしくということやね。
藤本 IT社会といわれる情報化の時代。何が本当の情報かわからない。母親たちにとって、本当に必要な情報とは何か。だからこそ、『ビーボラビータ』はお母さんたちのナマの声を大切にしていきたい。ポイントは母親の視点ですが、お父さんたちにもどんどん発信してもらいたいですね。
浜田 楽しみだね。大いにやってください。それにしてもこのイラストい〜ね〜。お父さんの目なんか最高やね。「いえ〜い!」って、言うてんのやろね。
藤本 わかってもらえました? これまでの『教育大阪』と雰囲気が変わるので、不安もありますが。
浜田 やっぱり変わるときは、これくらい思い切って変えないと。よーわからんけど、なんか面白い。
藤本 表紙は「いろんな家族があっていいよね」って、新しい家族像の提案です。
浜田 みんなで「大きく変わろうよ」というメッセージやね。応援するよ。
藤本 所長に応援していただけたら心強いです。母親として何ができるかを真剣に考え、大勢の方々と手を結びながら『ビーボラビータ』をつくっていきたいと思いますので、これからもどうぞよろしくお願いします。今日は所長のお人柄に触れ、とっても楽しいひとときを過ごさせていただきました。本当にどうもありがとうございました。