スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

ジャーナリズムを考える人の心を育てるそれが新聞の役割 読売新聞東京本社・社長 老川祥一さん

船乗りになりたかった少年は、社会に関心を抱き、真実が知りたいと、新聞記者になった。物事には前後左右裏表があることを知り、客観的に伝えることの難しさを知った。子育てをする母親の悩みや苦しみを知ったとき、じっとしてはいられず、少しでも母親の支えになりたいと思ったという。世界一大きな新聞社の社長と日本一小さな新聞社の社長がこれからの新聞の役割について、本気で語った。

読売新聞東京本社・社長 老川祥一
おいかわ しょういち●読売新聞東京本社代表取締役社長・編集主幹。1941年東京都出身。1964年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。64年読売新聞社(東京本社)入社、盛岡支局。70年政治部、76年ワシントン支局。論説委員、政治部長などを経て、98年取締役編集局長。2001年読売新聞大阪本社専務取締役編集担当。05年読売新聞大阪本社代表取締役社長。07年以降、現在に至る。プライベートでは子ども1人、孫2人。

新聞記者とは、人間の悲喜こもごもを自身の心で感じ、客観的に伝える仕事。
一面的な印象頼みではいけないのです。

藤本 長年この世界で活躍されてきた老川さんに、今日はジャーナリストの原点を学ばせていただければと思っています。それにしても、日本一大きな新聞社の社長に、日本一小さな新聞社の私がそんな質問をするなんてあつかましいですね(笑)。

老川 いいえ、とんでもない。でもすみません、日本一だけではなく一応、世界一です。

藤本 えっ! それは失礼しました。勉強不足でした。今、読売新聞の発行部数はどのくらいなのですか。

老川 1000万部超、おかげさまで世界第1位です。

藤本 想像もつかない数字ですが、私たちの新聞は10万部。「マザージャーナリズム」といって、「お老川祥一さんとの対談写真 その1母さんの視点」を大事にしているんです。

老川 いやあ、面白い。すべてにおいて、お母さんの視点は大切です。

藤本 お母さんの現場は家庭や地域です。お母さんが子どもとの関わりの中で感じたこと、体験したことを綴ったり、地域の人々や出来事を記事にしたり。子育てや教育はもちろん、環境、経済…、子どもたちにとって本当にいい未来をつくろうという視点で発信しています。

老川 ぼくら新聞記者の現場は、国会や事件・事故。若い頃はみな地方回りで、最初は警察を担当。殺人事件や交通事故…いたましい姿を目の当たりにし、生々しい取材を経験します。ある意味、人間生活の悲喜こもごもを自身の心で感じ、客観的に伝える仕事といえるでしょう。

藤本 新聞には影響力があります。世の中の人々を啓蒙し、リードしていくという意味ではやりがいもあると思いますが、責任も重大ですね。

老川 自分の目で確かめて、本当のことを伝えるということ。一方からではなく、前後左右裏表、いろいろな角度から物事を見る必要があります。テレビは情報の一部を放映し、またコメンテーターの一言がさまざまな誤解を生む。新聞は、そうはいきません。新聞記者が小説家や学者と違うのは、事実の背景にある社会的な問題点を正確に理解した上で書くということです。

藤本 物事には事実と真実がある。まさに、ジャーナリズムの原点ですね。最近は書く側の意識、社会への興味や関心が薄れているのでしょうか。

老川 確かにペンを持つ人間の意識は重要です。書くことが嫌いではできない仕事ですが、ぼくの場合は好奇心がまさっていた。自分の目で見てどう伝えるかというところに、面白さを感じたのです。

藤本 小さい頃から、新聞記者になりたかったのですか。

老川 子どもの頃は船乗りになりたかったんです。でも「地学」で0点を取ってしまい、これじゃダメだとあきらめました。高校〜大学と安保闘争の時代。政治に興味を持ち始め、「正しい情報を伝えなければ、国民が惑わされる!」と、新聞記者を志望したのです。

藤本 小さい頃はどんなお子さんでしたか。

老川 どちらかといえば、おとなしいほうだったかな。

藤本 ご両親は、どんな方ですか。

老川 父方は浅草の魚問屋、母方は長野の小領主で、商人と武家の血を引いています。母は没落武士の家に育ち、物事のけじめやしつけにうるさい人。「書く」ことは母にならったのかな。さらさらと文章を書く人でした。残念ながら、父にはそろばんのはじき方はならいませんでした(笑)。

藤本 これまでたくさんの現場を歩かれたと思いますが、記憶に残っている取材があれば教えてください

老川 1968年に起きたマグニチュード7・9の十勝沖地震。青森や八戸も震度5を記録し、八戸の街は丸焼け状態でした。私は盛岡支局員でまだかけだしでしたが、ちょうど娘が生まれたばかり。余震が続く中、家族には心細い思いをさせました。我々には、みなが大変なときこそ伝える使命があり、家族は大変です。

藤本 それではお子さんが小さい頃は忙しくて、子育てどころではなかったでしょうね。

老川 今は家族を大事にしていますが、当時は家庭をないがしろにしていましたから、とても人様にお話できたものではありません。昔は、新聞は男の世界などといわれ、家に父親は不在。妻にもずいぶん迷惑をかけました。

藤本 日本の高度経済成長の時代ですね。最近の新入社員の皆さんはいかがですか。

老川 「新聞記者志望」といえば昔は、ひとクセもふたクセもあるが、骨のある奴が多かった。しかし今は、給料や安定第一。「証券会社に商社、放送局に国家公務員にも受かった。でも新聞社が一番の志望です」なんて平気で言いますからね。そういう人に限って、現場ですぐに音を上げる。不況の就職難で、最近はいい人材も増えてはきましたが…。

藤本 「やりたいことが何もない。わからない」という若者も多く、ブランドで職業を決める時代なんですね。

老川 初心がはっきりしないから困難に立ち向かう力が弱く、嫌なら辞めるし、仕事がストレスになってしまう。

藤本 おかしな時代になりました。昨年この新聞で、「お母さんは新聞を読んでいない!?」という特集を組みました。子育て中のお母さんの42%が新聞を読んでいないという現実、NIE(教育に新聞を)の取材では、新聞を読んでいない先生が多いのに驚きました。

テレビやネットで十分と考える人も多いが、
実はそれが、子どもの成長にとって、
とても大きなダメージを与えているのです。

老川 若い人たちは「読む習慣がない」と言うんですね。ぼくら子どもの頃は、家に新聞があるのは当老川祥一さんとの対談写真 その3たり前。「お父さん、食事のときくらい、新聞はやめてください!」なんていう会話があったものです。でも今はみな忙しく、食事も一人ひとり。新聞を中心にいろいろ話しながら、食卓を囲むという光景がありません。

藤本 お母さんは朝から晩まで子育てに追われ、自分の時間がありません。子どもを産んでから、新聞を読まなくなったという人も多いんです。

老川 テレビやケータイ、ネットで十分と考える人も多いが、実はそれが、子どもの成長にとても大きなダメージを与えています。企業が嘆いているのは、優秀な人材なのに、営業ができない、人とコミュニケーションができない人が増えたというんです。

藤本 便利な世の中だから、人と関わらなくても生活できてしまう。生身の人間とはつきあえない人も多いのですね。

老川 相手がうれしいのか悲しいのか、加減がわからない。子どもの世界でも暴言やいじめが当たり前に起きているという現実。ここが今の世の中の最大の問題です。新聞を読むという行為は、行間を読み、思考するということ。コミュニケーションのもととなる言語能力を高め、人間性を豊かにします。新聞は「社会を映す鏡」といわれるように、世の中で起きているさまざまな出来事が見えます。

藤本 次世代の担い手である子どもを育てる母親だからこそ、社会のさまざまな事柄や状況を知っておかなければなりません。それに、いくつになっても学びです。新聞をめくると、新しい出会いや刺激がたくさんありますね。

新聞を読むという行為は、行間を読み、思考するということ。
言語能力を高め、人間性を豊かにします。

老川 新聞で視野を広げること。さまざまな文章に触れ、そこから事実を読み取り、想像力をふくらませて自分なりの考えを持つこと。それが人間の一番の成長のもとだと思います。そんなことが根本にあり、2001年、大阪発刊50周年記念事業の柱として「よみうり子育て応援団」という取り組みをスタートしました。

藤本 具体的にはどのような企画ですか。

老川 児童虐待のニュースが連日紙面をにぎわすようになった頃、子育て相談の電話が編集部に頻繁に届きました。乳離れやオムツはずしなどささいなことで大勢のお母さんが不安な日々を送っている。これは放ってはおけないと、専門家や著名人ら30人を集め「応援団」を結成。全国を回りシンポジウムを開きました。「国境なき医師団」にヒントを得て、隣近所に相談できる人がいないというお母さんたちに、こちらから出向いて悩みを聞いてあげようという企画です。イベントは、綿密な打ち合わせのもと、託児室におまるまで用意してお母さんたちを迎えました。会場では、マニュアル本で育児不安に陥ったお母さんたちが次々と手を挙げて質問。それを聞いて、「私だけではないんだ」と安心するのです。

藤本 あたたかい手づくりのイベントだったのですね。私は20年間ずっと、お母さんたちを元気(笑顔)にしたいと、さまざまな活動をしてきました。今でこそ、企業も「子育て支援」といいますが、10年前は「子育てと経済は関係ない」と相手にされませんでした。ですから当時の取り組みとしては、先駆的なことだったと思います。

老川 その後「よみうり子育て応援団大賞」を創設。地域の子育て支援団体を表彰するなど、応援団事業は現在も継続しています。遡れば、論説委員をしていた1990年には、労働省の諮問機関・婦人少年問題審議会の委員に就任。92年に施行された育児休業制度法制化にも携わりました。

藤本 子育てをしてこなかったという懺悔の気持ちもあるのでしょうか(笑)。老川祥一さんとの対談写真 その3

老川 それもありますね。

藤本 読売新聞社の次世代育成支援対策について教えてください。

老川 2008年4月に厚労省の認定を受け「くるみんマーク」を取得しました。女性の定期採用は1980年代から本格化、現在は新入社員の3割程度が女性です。

藤本 「新聞社=男の職場」という印象はかなり薄れているのですね。でも女性は、結婚や出産の時期をどうするかという問題もありますね。

老川 女性の育児休業制度の取得率は9割を大きく超え、また男性の取得も14人と、年々増えています。この4月からは、東京駅前に新設される託児所と法人契約をし、8人分を確保しました。また妻の出産に際し、夫にも配偶者出産特別有給休暇(5日間)をとることを推進しています。

藤本 世間では「ワークライフバランス」を推進しながら、制度はあっても、取得するのは難しい現実もありますね。

老川 男女を問わず、育児休業をとる場合、同僚や上司の理解やサポートが必要になります。人間関係はもちろん、普段の仕事ぶりが大切です。

藤本 育休中、親は子どもから学び、地域を知ることにもなります。職場復帰後は、こうした子育て経験を十分に生かして活躍してほしいですね。

老川 元来、新聞は政治色が濃いものでしたが、読売新聞の場合、1874年の創刊当時、「をみな新聞」(女性新聞)という題号が候補にあがったほど。以来、女性や子どもにもわかりやすく伝えるのが使命とされてきました。暮らしや生活、人生相談にも定評がありますが、おっしゃるように、政治や国際面でも育児経験が生かされるような紙面づくりを心がけたいですね。

藤本 『お母さん業界新聞』はかなり偏った新聞で、「子育ては素晴らしい」「お母さんはスゴイ」と繰り返し伝えています。このご時世、暗いニュースが一面を飾るのは仕方ないにしても、「子育ては大変」というネガティブな情報ばかりでは、誰も子どもを産まなくなってしまうし、子どもに、あまり読ませたくない記事が多いのも気になります。

老川 新聞社としては、経営的にも非常に厳しい現実の中、今後も読者のニーズに合わせ、生活に密着した情報を伝えていけたらと思います。また、昨年、親子で新聞を読んでもらおうという狙いでスタートした「ポケモン企画」など、さまざまな企業努力も続けていきます。藤本さんの『お母さん業界新聞』の偏りは大いにけっこう。一般紙ではないのですから、とことんこだわったほうがいい。物質的なこの時代、内面的な心の問題が大切です。心を育てるには、新聞が持つ役割も大きいと考えています。我々も、今以上に信頼される『読売新聞』を目指したいと思います。

藤本 私も微力ながら、お母さんたちに新聞の大切さを伝えていきたいと思っています。最後にお母さ老川祥一さんとの対談写真 その3んたちへ、一言メッセージをお願いします。

老川 人はみな、つい自分だけがうまくいかないかのような錯覚を起こしがちです。しかし、一休さんの言葉に「なるようになる。心配するな」という言葉があります。悩みや困難など、いろいろな経験を積んで人は大きくなる。今この瞬間を、しっかり生きてほしいですね。

藤本 母親だけではなく、すべての人に共通する、深いメッセージですね。私も心して生きていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

対談を終えて

読売新聞社の社長が、「子育て」を真剣に語られる姿は感動だったが、ごく自然に発した「乳離れ、オムツはずし、おまる…」の言葉も、妙にリアルでうれしかった。

そして、やはり血筋だろうか。ジャーナリズムを語る老川さんのお顔は、品格のある武家のお殿様のよう。一方で、にこっと笑うお顔は、粋で気のいい魚屋のおっちゃん(?)。どちらが老川さんの素顔なのか…。

「企業のトップとしてではなく、ひとりの人間としての夢は何ですか?」と質問すると、恥ずかしそうに「孫とゆっくり遊ぶことかな」と、おじいちゃんのやさしいまなざしに。

「社長は毎朝、読売新聞以外にどんな新聞を読まれるのですか?」と秘書の方にこっそり尋ねると、「朝日、毎日、日経、産経、東京、報知、デイリーヨミウリです」と。来月からは、『お母さん業界新聞』も入れてもらえるかな。

(藤本裕子)

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