スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

スペシャル対談 藤本裕子が各界トップに迫る!

児童虐待について考える母であることはひとりの人間であること 上村順子さん

豊かな社会の反面で、年々増加の一途を辿っている児童虐待の数。今も3日に1人の割合で、子どもが親から虐待を受けて死に至っているという現実の中、社会の法律やしくみ以前に、私たち一人ひとりができることを真剣に考えるべき時だと実感する。そこで、女性の摂食障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)、児童虐待専門の精神科医として、日夜、患者たちのケアにあたっている上村順子医師に話を伺った。

 

医療法人清流会くじらホスピタル理事長・精神科医 上村順子
うえむら じゅんこ●1955年高知県生まれ。89年山口大学医学部卒業。96年さいとうクリニック勤務、院長を務める。99年めだかメンタルクリニック開設。2006年から医療法人青流会くじらホスピタルに勤務。2008年4月医療法人青流会理事長に就任、現在に至病院外観写真る。女性の嗜癖問題(摂食障害、アルコール等)や性虐待、児童虐待(虐待する母も含む)、PTSD(心的外傷後ストレス障害)等を専門に治療にあたる。社会福祉法人子どもの虐待防止センター顧問・アドバイザー。3歳の女の子のお母さん。

●医療法人青流会くじらホスピタル http://www.kujira-hp.jp/

東京都江東区枝川3-8-25 TEL03-5634-1123

大人になりきれていない人が、
どんどん「お母さん」になっていく。それが、今の社会の問題です。

藤本 大好きなお母さんから虐待を受けている子どもの気持ちを考えたらいてもたってもいられず、上村順子さんとの対談写真 その1日々、患者さんと向き合っている上村先生に話を聞きたくておじゃましました。今日は主に「虐待」の現状について教えてください。

上村 日本で「虐待」という言葉が少しずつ出始めたのは、1994年頃のこと。最初は親からの報告で、突然死や事故死と処理されていました。「虐待」が判明し、児童虐待防止法ができたのが2000年。以降、いろいろ対策がとられ今日があります。

藤本 先日発表された平成20年度の児童虐待の数字は、左頁の通り。これは氷山の一角だと思いますが、先生のところには、虐待問題で来られるお母さんも多いのでしょうね。

上村 夫からの相談もあれば、行政と医療の連携で「母子の強制分離」といって、児童相談所から回されてくることもあります。その場合、ある日突然に病院にやってくる母親に対し、一から話を聞き、生活を見ながら、立ち直るまでをケアしていきます。

藤本 さまざまなケースがあると思いますが、子どもを虐待してしまう母親の問題とは、どのようなものなのでしょう。

上村 多くは母親の生育歴に問題があり、人の痛みがわからないといったケース。反面、子どもへの愛情過多で、夫の介入もなく、子どもと24時間べったりしている母子密着のケースも少なくありません。本来なら、大人の領域と子どもの領域を分つ世代間の境界線が必要です。しかしこの境界線がないと、子どもが社会へ出て、さまざまな人間関係をつくるときにもトラブルを生む要因になりかねません。

藤本 先生はずっとご専門でこられたそうですが、20年前、10年前と比べていかがですか。

上村 私の場合は、支持した精神科の医師がたまたま「虐待」を研究していたために、一足早くこの世界に入ったのですが、この間、社会状況は一変。情報社会、経済社会の発展の一方で、「地域」や「家庭」が崩壊、コミュニケーション不全の人間が急増。心構えがないままに「お母さん」になってしまう人が多いということです。

藤本 先日、内閣府が発表した数字によると、「結婚しても必ずしも子どもを持つ必要はない」と答えた人が、20代で6割にも達し、驚きました。

上村 おそろしい数字ですが、現実です。結婚以前にさまざまな問題を抱え、壊れてしまっている人が多いということ。つまり、今のお母さんたちの生育環境に問題があった。多くの母親が子育てを一人で背負い込み、「父親」の存在が家庭になかった時代です。もっと昔は家庭に父親の居場所があり、お父さんは「父親」の役割として責任と愛情を持って叱ったもの。怒鳴っても殴っても「心」があるから通じるけれど、「心」もなく怒っては通じるわけがありません。

藤本 お父さんが家にいるかいないかではなく、「心」があるかということですね。お母さん大学にも、母子家庭でもがんばって、父親の役割を果たしている母親もいます。

上村 その場合は、「父親不在」とはいいません。表面ではなく、物事の本質が大切です。子どもが「家庭」のイメージを持たずに大きくなってしまうと、寂しさから異性を次々と求め、結果として望まない妊娠、出産へとつながることもあります。子どもが子どもを産むようなものですね。

藤本 大人になりきれていない大人が増えているのですね。心の問題では「トラウマ」という言葉がよく使われますが。

上村 繰り返す人が多いという現実はあります。人は傷つきやすく、トラウマともいえる心に負った深い傷は、いろいろな後遺症を引き起こします。虐待をしてしまうお母さんの中には、自らが母親との関係に問題を抱えている場合が多いようです。

親からも誰からも自分を認められずに
生きてきた結果、自分のことを、
好きになれない人がたくさんいるのです。

藤本 自分の母親との確執を持ったお母さんは多く、虐待にまでいかなくても、今の子育てに影響を渡辺真知子さんとの対談写真 その3及ぼしている姿は容易に見てとれます。子どもはいつも母親を見て、感じています。いい意味でも悪い意味でも、子どもはお母さんの影響を受けて育つのですね。

上村 中でも、人間の人格形成に影響を及ぼす、幼児期の子育てが最も大事。そのことを、今の若いお母さんたちに伝えていかなければなりません。病院には、過食や嘔吐を繰り返し、体重が極端に増減する「摂食障害」の患者さんもたくさんいます。多くは思春期の子どもたちで、外見を気にしてダイエットに挑戦するのを契機に発症することが多いのですが、心の背後には、やはりコミュニケーション不全や自信のなさなどが複雑に絡み合っています。ここでも問題は、母子関係。厳格すぎる母親に育てられ、常に「いい子」を演じてきた。けれども思春期になり、親への反発心が爆発、「摂食障害」という心の病となってあらわれます。

藤本 10代の若者だけでなく、摂食障害に悩む「お母さん」もいるそうですね。

上村 10代の若者と同様、やはり自身の母親の影響を多大に受けています。子育てはもちろん、料理やそうじなど、あらゆることが完璧にできない自分を許せないと同時に、子どもが自分から離れ、自由にすることも許せない。両者に共通しているのは、みな「自分が嫌い」ということです。

藤本 親からの愛情を満足に受けられず、自己肯定できずにきたことが、さまざまなストレスとなり、結果的に障害となってしまうわけですね。

「お母さん」という仕事は、どんな仕事よりも尊いもの。
お母さんたちはもっと自信を持ってほしいと思います

上村 もし「母親」とうまくいかなければ、おばあさんでも、近所のおばさんでもいい。「あなたは大事。あなたが一番かわいい」と言ってくれる人がいたら大丈夫なんです。自分の存在を誰からも認めてもらえずにきた人が、「お母さん」になっていくらがんばっても、「子育てはやって当たり前」と夫や周囲の誰からも認められずにいたら、おかしくなるのも当然でしょう。

藤本 この新聞で伝えている、「お母さんはスゴイ!」という言葉に救われたというお母さんも、たくさんいます。

上村 初めて「お母さん業界新聞」を読んだとき、藤本さんの思いを知り、共感しました。大切なのは、母親が「自分」というものを持つことです。

藤本 私はずっと、出会った母親たちに「あなたの夢は何ですか?」という質問を投げかけてきました。それが「自分自身」と向き合う最初のきっかけになるのです。たいがいのお母さんが子どもと夫を優先し、自分のことは後回し。だからこそ私は、「子育てとは、お母さんが夢を描くことだよ」と言い続けてきました。

上村 子育て以外に「生きがい」を見出せないお母さんが、子どもをお人形扱いした結果、「お人形の氾濫」として摂食障害や虐待を起こす。もともと日本は「個」がない国ですが、あまりにも大人として成熟していません。「自分」の価値観を持たない大人が大半で、多くの問題はそこにあります。

藤本 そういう患者さんたちを、先生はどのように治療していくのですか。

上村 薬も処方しますが、カウンセリングも重要です。しかも、「人間って何だろう。自分って何だろう」といった根源的な話からです。「お母さんである前に、ひとりの人間である」ということに気づいてほしいので、私自身が、医師である前に「ひとりの人間」として接しています。

藤本 医師と患者は上下の関係と思いがちですが、先生の場合は、同じ人間なんだというところからスタートですね。

上村 むしろ、患者さんから学ぶことだらけの毎日です。医学部に入る前に学んだ社会学では、人はみな「よく生きる力」を持っているということを学びました。病院に来た人はみなとても傷ついている。にもかかわらず、命を落とさず、必死に生き抜いて今日がある。そんな素晴らしい力を持っている人たちを尊敬する気持ちで一人ひとりの患者さんに接していますし、スタッフにもそう教えています。

藤本 くじらホスピタルは、ホテルのようにおしゃれで明るく、柵も鍵もない病室。スタッフも白衣を身につけず、一般的な精神病院のイメージとはほど遠い、病院らしくない病院でびっくりしました。

上村 ますますおかしな世の中で、人々は疲れ傷ついています。そんな人たちが気楽に足を運べる施設。病気になってからではなく、未病の人を救いたい。そう思っています。

藤本 病院で定期的に開いている「家族の会」とは、どのようなものですか。

上村 一人で心の傷を癒すのはとても苦しい作業です。同時に、毎日責め続ける、怒りを暴力で爆発させるなどの問題行動をとる本人の周囲で、「私の育て方が悪かった」と自身を責め、「どう接していいかわからない」という家族の苦しみも相当です。彼らがほかの家族と出会い、話すことで解決の糸口を見つけたり、支え合ったりするための会が「家族の会」。また「らんぷの会」といって、専門医師がテーマを決めて「心の病」のことなどを話す会も開いています。

藤本 患者さんだけではなく、心や病気について、広い理解と協力を求めようという努力はもちろん、地域貢献や医療機関としての先駆的な取り組みという意味でも大切なことだと思います。最後に、お母さんたちに一言お願いします。

上村 追い詰められているお母さんが多いことに、危機感を持っています。未来をつくる「お母さん」と上村順子さんとの対談写真 その3いう仕事は、社会にあるどんな仕事よりも尊いもの。だからお母さんたちはもっと自信を持って、威張っていいと思います。完璧なお母さんでなくていい。子どもは、どんなお母さんでも大好きなんです。今、自分を愛せない人は、とにかく自分を抑えずに、楽しく笑顔でいられることを心がけてください。世の中のしくみや周囲の手助けも必要でしょう。そのために私ができることはやっていきたいし、藤本さんにもがんばってほしいと思います。

藤本 力強いメッセージをありがとうございます。今の言葉には、医師としてというより、「お母さん」としての思いがたっぷり込められていたと思います。これからはお母さん大学の校医として、お母さんたちのサポートをよろしくお願いします!

対談を終えて

医者らしくない医者。言い換えれば、人間らしい人間。

今回ご自宅に伺うと、そこには、病院で見る上村先生とはまた違う表情があった。対談中は、上村さんの中にある「医者」の顔と「母親」の顔が交互に見え隠れし、心地よい刺激とやすらぎに、響き合うものを感じた。

上村さんが、人々の「心の傷」に向き合うようになったのは、学生時代に「人間とは何か?」のテーマにぶつかったことがきっかけだった。幼い頃は、裏山でターザンごっこ。自然の中ですくすく育った上村さんだが、大人になる過程で、人間という壁にぶつかり悶々と過ごす時期もあったという。そのことが、ひとりの医者の誕生につながっているのだろう。

子育てとは、人間を産み育てる大事業。そこに悩みがあって当たり前。人は「困難」にぶつかるたびに、人間らしくなっていく。上村さんが語った「日々、患者から多くを学んでいる」という言葉が、とても新鮮だった。
(藤本裕子)

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