藤本 このたびは、社団法人神奈川県歯科医師会の第18代会長にご就任おめでとうございます。
高橋 8年間専務理事を務めてきて、歯科医師会の役目は理解しています。秦野の歯科医院は後継者も育ち、歯科医師会の仕事に専念していける環境も整ったこともありまして(選挙に)出させていただきました。
藤本 これまでのご経験を評価されてのことなのでしょうね。
高橋 私にはリーダーとしての資質はありませんが、優秀なブレーンに支えられていますので、これからも皆と相談しながらやっていこうと思っています。
藤本 改めてお尋ねしますが、歯科医師会とは、どのような役割を担っていらっしゃるのですか。
高橋 県内33の地域歯科医師会を取りまとめる公益法人としての使命を全うし、県民の皆様に良質な歯科医療を提供するため、歯科医師会会員の経営や生活の安定をはかっていくこと。会員教育にも力を注いでいく必要があるでしょう。プラス、歯科医療というもののとらえ方を変えていく必要があると認識しています。
藤本 それはどういうことですか。
高橋 たとえば藤本さんは、どんなときに歯科医院に行きますか。
藤本 昔から歯が弱くて何軒もの歯医者さんに通いました。でもいつも、むし歯ができて歯が痛くなってからですね。
高橋 ほとんどの人が歯医者に行きたくないから、つい後回しにする。
藤本 その分、歯が悪くなるという悪循環ですね。
高橋 そうなってしまう理由は簡単。むし歯や歯周病では、命に別状がないという思い込みがあるからです。
藤本 私も、歯の健康と身体全体の健康が大きく関わり合っていることを知ったのは、ごく最近です。
高橋 正しい情報が、必要な人のところに届いていないようです。
藤本 そのあたりのことをもう少し教えていただけますか。
高橋 噛むという行為は、食物を細かく砕き、唾液と共に飲み込むための消化運動の一部と考えられてきましたが、実際は全身の健康維持に大きな役割を果たしていることがわかってきました。神奈川県歯科医師会では、80歳で20本の歯を残そうという「8020運動」の一環として、高齢者よい歯のコンクールを行っています。応募者は、高齢になっても多くの歯が残っている方ですが、多くの歯を残存し、その歯が機能している方々は姿勢も運動能力もすぐれ、ボケもなく、私たちの世代から見ても驚くほど若々しいのです。
藤本 自分の歯で噛むという行為には、どんな効果があるのでしょう。
高橋 噛むという刺激は脳に伝達され、脳の血流を増やし、脳の機能を活性化します。疫学的な研究によっても歯牙喪失がアルツハイマー型認知症の危険因子であることが示されています。また、噛むということは食べ物の物性が歯を通して顎や全身に加えられるということです。
藤本 私も肩こりや腰痛が多く、以前、歯の咬み合わせが悪いことが原因といわれたことがあります。
高橋 腰痛や肩こりのほか、不定愁訴、自立神経系、内分泌系、免疫系にも影響が見られます。ですから、自分の歯で咀嚼することが理想ですが、やむを得ず失った歯は人工的に補うことも大切です。
藤本 入れ歯やインプラントなど、歯科医療の技術進歩も目覚しいようですが、その情報もあいまいで、正直よくわかりません。
高橋 歯科治療は人によってケースバイケース。良い悪いを一口に言い切れるものではありません。いずれにしても、人工的に補ったものでは、咀嚼する力も全身への影響も劣りますが、欠損のままにしておくよりはるかに効果はあります。
藤本 具体的な症例があれば教えてください。
高橋 車いすに乗っていた人が立ち上がることができた例。徘徊していた認知症の人に義歯を入れ使用させたところ、約2か月後に自分の名前を言えるようになり、さらに時計を読むことができるようになった例など、数多く報告されています。
藤本 歯を残し、その歯で噛むことがすべての健康に関連するのですね。
高橋 それに加えて、医療費を削減することにもつながります。実際に70歳以上で8020運動を達成している方と達成していない方との医療費を比較すると、8020達成者のほうが明らかに低い医療費だったと報告されています。
藤本 国の医療費削減問題で、保険診療と自由診療について議論されているようですが、歯科医療を充実させれば医療費を削減することができるのですね。