藤本 今、美味しいおうどんをいただきましたが、こちらのお店は、横浜市の障害者地域作業所として運営されているそうですね。
宮田 もともと私が地域の自治会長をしていた関係で、作業所の運営委員長になったのが15年前のことです。作業所では主に自動車や電気部品の組み立てなどを請け負っていますが、たまたまスタッフの中に和食料理店のキャリアを持つ人がいて、「作業所でも飲食店ができないだろうか」という話になったのです。
藤本 うどんやさんは珍しいですね
宮田 喫茶店やパンをつくる作業所はありますが、うどんやというのは、横浜市でも初めてです。営業時間が限られるので、実際に商売としてやっていくのは大変だと思います。さまざまな問題もありますが、みんなの気持ちがひとつになったので、「よし、それならやってみよう!」と。
藤本 先ほどから皆さん、笑顔で接客されていましたね。福祉のことはあまり詳しくありませんが、障害者の皆さんも、こうして社会の中で人々とふれあいながら生きていくということが、大きいのでしょうね。
宮田 そうです。うどんやといっても、うどんをつくることだけが仕事ではありません。たとえばこの壁のお品書きも障害者のひとりが書いたものですが、なかなかいいでしょ。
藤本 先ほどから「味のある素敵な文字だな」と思って見ていたんです。
宮田 毎年、泉区の福祉作品展に絵画や書を出展しているんですが、中に個性的で面白い文字を書く子がいて、「どう、やってみる?」と言うと、喜んで書きました。
藤本 それぞれの個性を見出し、社会にどう生かしていくかというのが、本当の福祉なのかもしれませんね。
宮田 受け皿的な考え方ではお互いに発展していきません。
藤本 それはシニアも同じですね。会社や仕事をリタイアしたあとの年金問題よりもその方たちの力をどう生かすかが、先だと思います。
宮田 介護保険法ができたとき、ヘルパー2級の資格を取ったのですが、一緒に受講した5人の仲間で「せっかく資格を取ったんだから、何かやろう」と立ち上げたのが、たすけあいグループ「ゆりの会」です。最初は「介護保険では手の届かないサービスを」とうたって始めたのですが、実際にはさまざまなニーズが出てきました。草取りや庭木の手入れ、ペンキ塗り、日曜大工…。
藤本 日常の困り事を解決する便利屋さんですね。
宮田 そう。それまでお礼にいただいていたビール券や田舎から送られてくるりんごの代わりに、「有償」にさせていただいたのです。
藤本 ビール券もりんごも、結局は双方が気を遣うんですよね。
宮田 スタート時、5人だったメンバーは、5年で23人になりました。すごいのは、活動に刺激され、各自がヘルパーの資格を取ったり、NHKの講座を受けたりで、介護も植木の剪定もセミプロのレベルなんです。
藤本 お金をいただくことでサービスの質が上がり、なおかつそこに使命感があるのだから最高ですね。
宮田 あるとき「寝たきりの妻を花見に連れていきたい」という依頼がありました。車いすを押してお花見に行った帰り道、ご主人が「ここのスーパーに毎日通っていたんです」というので、一緒にスーパーの売り場を一周したんです。
藤本 主婦にとってはなじみのある場所です。ご本人も、ご主人もうれしかったでしょうね。
宮田 とても喜ばれました。当時を知っている店の人も声をかけてくれたりして、私も感動しました。また、庭木を切ると20袋ものゴミが出ます。でも、業者の仕事はそこで終わり。私たちは、収集日の早朝にゴミ捨てまでするんです。
藤本 そこがビジネスとは違う奉仕の心なんでしょうね。
宮田 最近は「中高年になって時間はある。何をしようか?」という人がたくさんいます。グループに入会し、「人助けになり、お金までいただける。有意義な時間が過ごせて、楽しい」と言ってくれるんです。
藤本 団塊シニアの「残りの時間をどう使うか」が話題になっていますが、地域デビューのきっかけとしてもわかりやすくていいのでしょうね。
宮田 地域でシニアたちがいきいきと活躍できる場はまだまだたくさんあります。私は泉区社会福祉協議会の「男性ボランティア連絡会」で企画をしたり、サークル活動を紹介したりしています。「泉区レクリエーション協会」では会計監査をしていますが、毎月ウォーキングを実施しています。そのほか「いきいき健康づくり」をテーマに活動するサークル「ウエルネス泉」の相談役などもしています。
藤本 今は行政のバックアップもあって、趣味のサークルやNPO、ボランティアグループなど組織や活動は多様化しています。でも継続させていくのはなかなか難しいようですね。
宮田 「ウエルネス泉」は健康をテーマに講演会を開いたり、バスハイクを実施したりと精力的に活動するグループですが、「約100人の会員がいるが、運営していくのが大変」という。そこで行政や民間の助成金制度を活用したり、講師を紹介したりして、少しでも活動を安定させるために、アドバイスをさせてもらっています。
藤本 宮田さんのような経験者の知恵が必要なんですね。それにしても宮田さんが、このような地域活動を始められたのはいつ頃からですか。
宮田 サラリーマン時代からすでにいろいろやっていたので、かれこれ40年になります。
藤本 もともとは新聞社にお勤めだったそうですね。
宮田 新聞社にはたくさんの部署があります。私は印刷から入って編集、調査といろんな部署を経験しました。書くことも好きでしたし、デザインや写真も学びましたので、それらがすべて今の活動に生きています。
藤本 先ほど拝見した新聞や小冊子も、なるほど、そのキャリアを生かされてのことですね。
宮田 「泉区歴史の会」でつくっている『郷土いずみ』は、歴史の好きな連中が集まって年に1回発行。間もなく13号が出ます。中田地区社会福祉協議会で発行している『福祉なかだ』や、たすけあいグループ「ゆりの会」の新聞などもつくっています。
藤本 宮田さんは情報発信の意味を熟知し、制作のノウハウをお持ちだから簡単にそうおっしゃいますが、普通はなかなかできないことです。