藤本 早速ですが、コアネットという組織について教えてください。
梶 NPOコアネット理事長である増島勝(元株式会社TDK専務取締役)から「元気も時間もお金もあるリタイアメントシニアたちを集めて、何か社会に役立つボランティア活動でもやらないか?」と相談されたのは、6年前のことでした。ちょうどその頃「大学生や高校生が、どこに就職していいかわからないという現状がある。学校で仕事の話をしてくれないか」いう依頼がありました。ぼくには定年はないが、周りには対象者はたくさんいる。それなら、と5人のメンバーが集まって立ち上げたのが2000年5月。正式な発足は、その年の12月です。
藤本 6年間でメンバーが60人にもなったのですね。
梶 クチコミと新聞に取り上げられたことで、さまざまなキャリアの方が集まってくれました。リタイアした人だけでなく現役の方も。リタイア後は一切仕事から手を引いたという方もいれば、むしろ現役時代より忙しく、あちこちで活躍されている方も多いですよ。それでも皆さん、コアネットの活動はあくまでもボランティアとして関わってくださっているので、本当に感謝しています。
藤本 活動の目的は何ですか。
梶 産業界での豊富な経験で培ったノウハウや知識を、後進の育成に生かしたいという思いに尽きますね。
藤本 事業内容はどんなものですか。
梶 1つは中小企業の支援。2つ目は自治体の事業評価。2005年度は神奈川県の事業評価プログラムに参加し、「自治総合研究センター研修事業」の事業評価に参加させていただきました。3つ目が学校でのキャリア教育支援です。
藤本 神奈川の県立高校を舞台に、子どもたちに向けての活動を展開されていらっしゃるそうですね。
梶 大学生や高校生の職業意識が低いといわれている中で、子どもたちに、常に動き続ける産業の姿や、実践的な仕事の魅力を知らせることは、とても重要なことだと思っています。そこで、ものづくりの体験授業や仕事についての講演などを通じ、職業意識を持たせ、産業の魅力を伝えることを目的としています。
藤本 おひとりずつ、これまでのお仕事について、それから現在の楽しみなどを教えていただけますか。
村山 トヨタ系の自動車関連会社で車両開発や新商品開発を中心にやってきましたが、最後は住宅事業も経験しました。リタイア後は中小企業の経営相談を引き受けたりもしていますが、家でのんびりする時間もできました。ものづくりの専門性を生かして家のリフォームをしたり、好きな写真を撮って現像を楽しんだりしています。
中野 電気メーカーで半導体の販売を中心にやってきました。自由人になり、コアネットのような社会活動に意義を感じています。テーマは無味乾燥人間をどうやって脱皮するか。趣味は読書、歴史、俳句、ゴルフ、魚釣りと食べることです。
山本 本業は代々続く金型業ですが、比較的早い時代にITを導入して電子化を進め、その関係もあって、パソコンを一から学びました。インターネットのネットワーク管理者を長く続けていて、法律関係に詳しくなってしまいました。今もIT関係の仕事が多いですね。
梶 生産管理技術のコンサルティングと出版・編集など制作プロダクションが本業です。コアネットの活動も徐々に成果があらわれ、ますます力を入れたいところです。メンバーの層が厚く、それぞれがしっかり仕事をしてくれますので、事務局は提案して企画するだけ。趣味では20年来「そば」一筋。そば打ちをはじめ食べ歩きとHP発信で、こちらも大勢の仲間と楽しくやっています。
藤本 皆さんお忙しい中で、コアネットの活動をされているんですね。具体的な活動を教えてください。
梶 高校の総合学習などで、授業を任されてやっています。技術系のワークショップや編集講座、起業講座、職業講話など、それぞれのメンバーの得意に任せ役割分担をしています。
村山 大秦野高校では動かなくなったバイクのエンジンを教室に持ち込み、分解して再生し、エンジンをかける。最後はみんなで乗って、安全講習までを体験してもらいました。
藤本 生徒たちの反応はどうですか。
村山 最初は油や排気ガスで汚れたバイクを遠巻きに見ていた高校生も徐々に目の色が変わり、最後にエンジンがかかった瞬間は、目をキラキラさせて声を上げます。
藤本 工業高校でもないのに!?
村山 中古のバイクは地元のオートバイ屋さんに用意していただくなど、地域の連携も大切です。ビスのしめ方や工具の扱い方を知らない子どもたちが、一つひとつ工程を踏みながら学習していきます。ものづくりの創意工夫だけでなく、機材の運搬や後始末を積極的にやる姿、皆の前で堂々と発表する姿など、目に見える成長にこちらも胸が熱くなります。
山本 高浜高校でコーディネートした「ロボカップサッカー」も、同じものづくり系のワークショップです。ロボットの頭脳はパソコンを駆使してプログラミング。完成したロボット同士がサッカー試合を楽しむまで、半年の時間をかけて行います。
藤本 子どもたちはコンピュータの扱いはお手の物ではないですか。
山本 プログラムづくりが得意な子もいれば、手先が器用で細かい作業が得意な子もいる。中にはやすりかけが抜群にうまい子もいたりして、それぞれの個性が見えてきます。何かにつけ細かな点をほめるようにしているので、皆それぞれに自信をつけ、楽しさを見出していきます。
藤本 均一化されてしまいがちな教育現場では、子どもたちの個性を発揮できる場は少ないでしょうからね。
梶 学校はどうしても知識が先行しがちですが、手作業ベースの体験だから面白い。生徒の取り組み姿勢が違います。しかも集団でひとつのものを完成させていくという過程では、相談したり協力したりというコミュニケーションが知らずに起こります。
村山 今の教育システムではどこかを基準にボーダーを引き、できる、できないと区別しがちです。だからこそ、できない子をあきらめるのではなく、着実に結果まで導いていきたいと思っています。
藤本 子どもたちにしたら、達成感を味わう喜びが大きいのでしょうね。
村山 物事を観察する力も養われ、たくさんの人がいて社会が成り立っていることを知ります。
中野 ぼくは、まず「今朝何を食べてきたの?」という話をします。野菜にしても牛乳にしても、食卓に並ぶまでにはさまざまな職業の人々が関わっています。我々はたくさんの人に支えられて生きていて、どんな仕事も素晴らしいということを理解してもらう。子どもたちには、サクセスストーリーよりも失敗談のほうが受ける。ぼくも浪人したことや左遷されたことを話して、先生ではなく「フツーのおじさん」なんだということをわかってもらうんです。
梶 子どもたちの無気力・無関心・無感動がいわれていますが、確かにその通り。挨拶やマナーもなっていない姿を見ると、一社会人として責任を感じます。現代は大人たちの価値観も多様化し、家庭と学校の連携にも難しさがあります。社会のしわ寄せがすべて子どもたちにいってしまっている状況に「生徒たちを、このままの状態で社会に出してはかわいそう」という気がしてなりません。
藤本 気づいた大人たちで少しでも何とかしたいというお気持ちですね。
山本 昔と違って、コンビニエンスストアに券売機、交番にもおまわりさんすらいない世の中です。人に出会う空間がないこと自体が問題です。
中野 そういう意味では、学校の先生も責任は大きいのでしょうが、先生も「学校」という限られた中にしかいないのだから大変だと思います。
村山 早くから英語を導入することではなく、使える英語を学ぶことが大事だし、もっといえば、何のために英語を使うかが大切です。
山本 たとえばエアコンのプログラムにしても、コンピュータにいくら詳しくても、心地よさとはどんなものかをイメージできなければ、プログラムはつくれません。つまり、心を感じることができない人にはITの仕事はできないということです。
藤本 子どもたちに、そんなことを話してくれる大人はなかなかいませんね。素晴らしいことだと思います。
山本 一方ではケータイメールで、「誰が書いたんだ?」というようなとても素晴らしい文章を書く子もいる。
中野 リアルに人とつきあうことがなくても何とか生きていける時代。だからこそ、伝えることがあります。
梶 出前授業で生徒たちとふれあうと、みんな次第に熱くなっていくのがわかるんです。約20人程度の生徒に講師が4人。いろんなタイプの人がいるので、誰かの一言にきっかけを見出し、「そういえばあんなこと言ってたおじさんがいたな」と思い返してもらえたらうれしいですね。