藤本 ご出身は鎌倉だそうですが、いい所ですね。
中村 はい。生まれは大船ですが、育ったのは長谷の近くです。いつもどこかで大仏様が私を守ってくれていました。小さい頃はよく姉と一緒に、路地裏を抜けて海まで出たものです。夕方にはひぐらしが鳴いて、都会にはない風情がある町でしたね。
藤本 現在はテレビやラジオ、ライブと大活躍ですが、音楽家になろうと思ったきっかけは何ですか。
中村 小学3年生のときに学校の課外授業で初めてプラネタリウムに行ったんです。たくさんの星を見て、「宇宙は広いんだなあ。なんで地球にだけ命があるんだろう。命は何にも代えられない宝物なんだな」って感動してその夜は眠れなかった。その体験が、今の私をつくっています。
藤本 壮大な宇宙を感じた8歳の少女は、そのころどんな毎日を送っていましたか。
中村 仲の良い友だちが通っていた音楽教室に一緒に通い始めた頃です。体が弱くてスポーツはからきしダメ。宇宙物理学の本を読んだり、音楽を聴いたりしていましたね。
藤本 デビューは早かったのですね。
中村 20歳のときでした。ところが23歳でスランプというか、結果的に、それが私にとっての転機になったわけですが、「何をもって人を感動させるのか」「人に伝えたいこと、表現したいものは何か」などと考えて、もやの中に入り込んでしまったのです。
藤本 表現者がぶつかる壁ですね。
中村 プロになったものの、私はクラシックピアノから始めたのではなかったので、「13歳からピアノをやるやつなんかいない」と言われ、コンプレックスに陥ってしまったのです。
藤本 厳しい世界なのでしょうね。やめようと思ったことはないですか。
中村 ないですね。音楽が好きで、音楽を通して人と共感したいんです。たとえば私の身の回りに起こった祖母の死や愛犬の死など、少しの経験から「命の大切さ、人が与えてくれたものの大きさ」を実感するようになると、ますます「命」とか「愛」を表現していきたいと思えたのです。
藤本 今の時代に、絶対必要なテーマだと思います。これまで、たくさんの映像音楽やドラマのテーマソングをつくられていますが、どのように曲づくりをされるのですか。
中村 台本やVTRを見せてもらいますが、ドキュメンタリー番組は、企画書やプロデューサーの言葉からイメージをつくることが多いですね。楽器を前に、イメージを集中し、自分の内側から聴こえてくる音をつないでいくという作業です。
藤本 『子連れ狼』や『はみだし刑事』などテレビ音楽も多いですね。でも、中村さんのイメージと時代劇や刑事モノって合わない感じがします(笑)。
中村 「人の心」を表現するという意味では、みんな同じです。どんなときも、主人公のことを考えながらイメージしていきますね。
藤本 「Love&Peace」が中村さんのテーマだと伺いましたが。
中村 日本には今は戦争はないかもしれませんが、日々、心ない戦いが起きていると思うんです。私は中学校のときにいじめにあったことがあって、そのときに受けた傷をどこかで引きずっているのかもしれません。
藤本 そんな経験が…。
中村 両親はどちらかといえば完璧主義で、優等生を常に求められていたんです。成功すれば喜んでくれますが、失敗したときなんか、めちゃくちゃ家の中が暗いんですよ。
藤本 それはちょっとつらいですね。
中村 反省しているのに、口をきいてくれない。「よくがんばったねって、どうして言ってくれないの?」って。「もっとがんばらなきゃ」と、親の期待に応えようとする自分がいる一方で、いじめられている現実があっても親にも言えない、家庭にも学校にも居場所がないというような、そんな原体験があるんです。
藤本 だからこそ、心安らかに命をつないでいくことの素晴らしさを、音楽を通して伝えたいのですね。
中村 さりげなく感じてもらいたいんです。音楽を聴いて好きな場所、好きな人、そのまま愛しいと思えることを思い出してもらうことができたら、きっと地球も元気になっていくんじゃないかと思えるんです。
藤本 今日は息子さんをお連れですが、お名前と年齢を教えてください。
中村 2歳半で、「康介」といいます。
藤本 「こーちゃん」ですね。どんな子育てをされていますか。
中村 許される限り職場にも連れていきます。最近は子ども同士の関わりを持たせたいと、児童館や体操教室に連れていくんですが、彼はみんなの輪の中に入っていけない。端っこで見ていたり、下を向いて何かを拾っていたり。なんででしょう…。
藤本 彼の個性ですね。親としてやきもきする気持ち、よくわかりますが、素直で純粋なだけですよ。
中村 そうですね。人の目なんか気にせず、自分のやりたいまま、本能のままに動いている姿を見ていると、マイペースというか、彼には彼の世界があるんだなあ。ゆっくりでいいから好きなものも見つけていってほしいなあって、心から思えるんです。
藤本 私にも孫がいますので、すごくわかります。でも私の場合は、自分の子育てのときはいっぱいいっぱいで、何もわかりませんでした。
中村 私自身、今まで肩肘張ってきたところがありましたが、それが不思議となくなって、素のままの自分でいいのかな。人と比べるのではなく、私がいいと思うものをそのまま音楽に託してみようという気持ちになれた。これは息子のおかげです。
藤本 お母さんになって、音楽も少し変わったのでしょうか。でも、子育てと仕事の両立は大変でしょう。
中村 毎日が時間との戦いです。でも、この子はまだ小さいけれど、私のことや、いろいろなことが、実はよくわかっているんじゃないかなと。
藤本 どういうことですか。
中村 仕事のとき、ある方に息子を預けたんですが、「こーちゃんがね、ママってかわいそうって言っていたよ」って。「何で?」って聞くと、「ママ、忙しい」って。またある日、康介がふと「ママ、大丈夫?」って言うんです。もうびっくりしました。
藤本 子どもは全部わかっていると思いますよ。ママのことを誰より感じているのでしょう。
中村 本当にそうですね。日々、成長していく姿を見ていると、毎日が感動です。母親になったからこそ、見えてくるものがあり、それが今の曲づくりにも影響しています。
藤本 母親は、子どもにとってはまさに宇宙のような存在です。きっと母親になられたことで、さらに深く人々の心に伝わるものを発信されるでしょう。
中村 「幸せ」の価値観が変わってきたんですね。『ヴィサン』は健康情報誌ですが、健康とは、自分の中で日々、生きている実感を持つことだと思います。アルバムの『ソレイユ』は子育て中のお母さんたちに向けてつくられたそうですね。
藤本 私自身、子どもが早産で2か月も早く生まれてしまい、生後間もなく締め切りに追われ、搾乳しながら曲をつくるというつらい時期があったんです。その仕事のあとはしばらく育休をもらって子どもと2人で過ごしましたが、これがまたどうしようもない孤独感とのたたかいで。自分は何をやっているんだろう。部屋の片隅でおっぱいをあげている自分のことを神様は見てくれないって。
中村 わかります。私にもそんな時期がありましたよ。
藤本 育児雑誌の離乳食のつくり方を見てつくっても、子どもは全然食べないし。ほかの子と息子を比べては落ち込んで、気持ちが焦るばかり。ピリピリしている自分がいましたね。
中村 子育て中の母親たちの多くが感じていることです。
藤本 これからの音楽活動について教えてください。
中村 今はやるべきことがある幸せを感じています。母親になって社会を見れば、悪いニュースばかりで、将来が不安です。多くの人たちが肉体も精神も疲れてしまっています。もっとみんなが自分の価値感に自信を持って、自分らしく楽しく生きていける世の中になればって、本当に思います。だからこそ、一人ひとりに寄り添うことのできる音楽を、私なりにつくっていけたらと思います。