(バックナンバー2002年7月号)

Beautiful Life
イルカと泳ぐことで実現する子どもの豊かな未来

 イルカ調査で初めてカンボジアを訪れたとき、村の人がくれた、手づくりの置物は岩重さんの宝物
 銀行員として激務をこなしていた岩重さんに、病魔が襲います。

 病院のベッドに横たわっていると、天井にイルカが現れました。

 そして、岩重さんは、イルカと共に生きていくことを決意したのです。

東京水産大学客員教授
岩重慶一さん

よみがえる故郷の記憶

「病院のベッドで、不思議なことが起こったんです」
 澄んだ目で岩重慶一さんが話し始めます。
 「天井が故郷の海になって、イルカが泳いでいました。彼らは、遠い国から遊びに来た友だちみたいに見えました」
 持病の腰痛が限界を超え、入院を余儀なくされた岩重さん。ベッドの上で読む本や雑誌は、イルカ関係のものばかり。脳裏には、イルカと遊んだ子どものころの記憶がめぐっていました。

  当時銀行員だった岩重さんは、仕事に追われ、「仕事以外に自分が楽しくできること」を考えたことも、気づく機会もありませんでした。しかし入院が、そのことを気づかせたのです。 「子どものころの好奇心と遊び心が、よみがえった感じです」 

 退院後、岩重さんは高校の同窓会に出席します。故郷の海や川のことが話題になり、鹿児島県・錦江湾にイルカの姿が全く見られなくなった…。これからの子どもたちに、イルカを通じて何かを伝えていける活動ができないか、という話へと発展しました。

 そこに、病院で思い描いていた故郷の風景が再びあらわれたのです。 「イルカに会いたい」という思いが、岩重さんを御蔵島へと向かわせました。同時にイルカと遊ぶ学校をつくりたいという思いが、日を追うごとに強まり…。岩重さんとイルカの関わりは、こうして本格的に始まりました。

自宅兼オフィス。「能見台の地域の皆さんと関わっていきたい」

HABの活動と
能見台への思い

 岩重さんが主催するHAB(Human Animal Bond)は、人間と動物の絆を研究する市民グループ。退院直後の1991年に発足しました。イルカを通じて身近な自然の素晴らしさ、真の豊かさとは何かを学びます。さらにイルカとのスイミング体験は感動であり、それはアニマルセラピーへと結びついていきます。シンボルはイルカ。拠点は、ここ能見台です。

 本格的に地域の住民たちと関わりだしたのは、今年の3月からです。それまでは、地域というより、もっと広い視野での活動がメインでした。

 まず、1993年、イルカと泳いで自然とふれあう「イルカの学校」を、御蔵島に開校。この活動は、今でも夏の恒例行事です。続いて95年には、桜木町のランドマークタワーで、イルカ会議を開催します。ジャック・モイヤー氏、小谷実可子氏など、多くの著名人が参加しました。

 そして96年、岩重さんの視線は、カンボジア・メコン川へと向かいます。かつては1000頭以上生息するといわれていた、イルカの実態調査を開始しますが、結果はひどいものでした。メコン川流域のイルカたちは、ダイナマイトや電気ショックを使った漁法、戦争の巻き添えなどで、絶滅寸前というありさまでした。

 これを受けて、メコン川流域のクラチエという場所に、イルカと出会い、守る活動の拠点「いるかの学校」が開校されたのです。1989年のことでした。

 御蔵島でもカンボジアでもどこでもいい。これからの子どもたちを、世界のイルカに会わせたい。彼らの持っている鋭い感性で、自然を見てほしい。それが、多くの親や子どもたちが抱えている問題を解決する手立てになるはず。岩重さんの活動はその仕掛けともいえるでしょう。 

 「カンボジアのボランティア活動から見た子どもの現状」と題し、先月地区センターで開かれた講演会では「今後は地域の子どもたちと積極的に関わっていきたい」としめくくられました。

今までと違う
生き方の発見

 私たちは誰もが、人間の世界しか見ていません。 「しかも、ぼくは銀行員という色メガネで世の中を見ていたんです。見えている人たちも会社人間。レンズに写るのはとても無機質なものばかりでしたね」

 病気が癒えた岩重さんのメガネのレンズには、くっきりとイルカが映っていました。 「会社人間として生き、マージャンとゴルフをし、年金をもらって一生を終えるのもいい。でも、違うメガネをかけることによって、違う生き方を見つけられるんです。そのメガネをほかの人にもかけて欲しいと思ったのがぼくの活動の始まりなんです」
 晴れ晴れとした表情で、岩重さんは言います。

 今年の夏も、岩重さんはイルカに会いに行く予定です。

イルカに限らず、動物はみんな好きという岩重さん。愛犬のラブリー君と。

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