そんなマザー・テレサが、まだ日本ではほとんど知られていなかった頃、彼女の活動を撮っている人
がいた。映画監督、千葉茂樹氏である。日本大学芸術学部を卒業後、近代映画協会に所属した氏は、新藤兼人、吉村公三郎監督に師事。集団就職問題を扱った大映作品『一粒の麦』で脚本家デビュー。以来、劇映画『孤島の太陽』『モスクワ我が愛』ほか、ドキュメンタリー、テレビドラマの脚本、テレビアニメ『赤毛のアン』など、多数の作品を手がける。そして1979年、世界で初めてマザーの活動を追ったドキュメンタリー映画『マザー・テレサとその世界』で、国内外8つの映画賞を受賞する。
クランクインは、シスターの終生誓願式の撮影だった。その中でマザーは、若いシスターたちに向かってスピーチした。「今日からあなたたちは一人前の宣教者です。でもそれは、ソーシャルワーカーという職業に就いたことではありません。単なる仕事としてではなく、神の思し召しとして生涯を通じ、貧しい人々のために尽くすことです」。
傍らでマイクを構えていた千葉氏は、ヘッドホン越しのマザーの力強い声に、激しく心を揺さぶられたという。「映画製作という仕事にも、使命、役割があるはずだ。そのことを生涯かけて果たすべきなのだ」。その気づきが、今の監督をつくったといっても過言ではない。
現在は、日本映画学校で映画の道を志す若者を育成すると同時に、来年公開予定のアニメーション映画『こちらたまご 応答ねがいます』を製作中だ。原作は、熊本に住む7男3女のお母さん=岸信子さんが書いた、妊娠と出産の物語。母親の胎内に宿った受精卵の弟と兄との対話がユーモラスに綴られ、命の誕生を巡り、家族の絆が深まっていく過程が表現されている。
「小さな命の大切さを子どもたちに伝えたい」と千葉氏の思いは実にシンプル。いじめや自殺、虐待、若者の性モラルの低下など、山積する問題解決の一助にと期待したい。対談記事をご覧下さい。








