八面六臂 藤本裕子の辛口エッセー

八面六臂 藤本裕子の辛口エッセー

2009年6月号

人生最後の子育て

この新聞をデザインしているスタッフKの父(88歳)が、先月から介護生活を送っている。末期がんだ。

 

彼女とはもう15年も一緒に仕事をしているが、入稿前は終電で帰宅、土日出勤も珍しくなく、ハードな生活だった。がこれまで、Kの両親から、仕事に対しての愚痴や不満など一切言われたことがない。改めて考えると、こうして長い間新聞をつくり続けられたのも、支えてくれる家族があったからだと感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

かつて、三浦市の商店街「三崎銀座」に、Kの祖父が営んでいた酒屋があった。その後Kの父は、米屋と履物屋を営んでいたが、三崎漁港の衰退とともに閉店。今や、商店街は半数以上の店がシャッターを閉めている。

 

お店を兼ねた自宅には、立派な酒蔵があり、屋根の中央には、家の守り神「鍾馗」(しょうき)があった。当時の様子は知らないが、不思議とそこに入ると、反映していた頃の躍動感が蘇ってきたような気がした。

 

昔は酒豪だったというKの父。「お父さん、蔵のお酒を飲みすぎて、店をつぶしたんでしょう?」と冗談を言うと、大笑い。「三崎の銀座小町といわれる奥様(Kの母)は、どうやって射止めたのですか?」と尋ねると、今度は照れ笑い…。ベッドの上でアルバムを開くと、セピア色の写真とともに、家族みんなの笑い声が響いた。

 

目の前の一人の老人は、決して病人ではなく、激動の時代を生き抜いて来た勇士。人間としての凛々しさ、潔さに溢れ、思わず私は襟を正した。

 

生まれることの喜びや感動は、誰より理解しているつもりの私だが、「死」というものにも「感動」があることを知った。老人は、それを私に教えるために、そこにいたとも思えるような。

 

88年間の月日を生きてきた人間の物語には、どれほどの感動があるだろう。もっと話を聞きたい、聞かなければ…。それが率直な感想だ。帰り際、「また来ますね」と言うと「お互いがんばりましょう!」と握手を求められた。か細い老人の手ではあるが、握りしめるその力には、人間の、生きるエネルギーが込められていた。

 

ますますの高齢社会。私たちは、彼らが生きた事実を、次世代に伝えていくことを忘れていないか。激動の時代を今日まで懸命に生きてきた人の言葉や教えには、どれほどの学びがあるだろう。

 

Kは今、父の介護に幸せを感じるという。親とは最後まで、愛する子のために、教示してくれるものなのだ。

(藤本裕子)

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